真剣に絵を描くみりかをせせら笑うような同級生の態度(禾屋眺さん提供)
真剣に絵を描くみりかをせせら笑うような同級生の態度(禾屋眺さん提供)

どれだけ好きなことでも、皆が同じ熱量でそれに向き合えるとは限りません。漫画家の禾屋眺さんが描いた作品『君のリビド』は、本気で夢を追うことの孤独と、それでも誰かを求めてしまう切実さを描いた物語です。

美大生である仲みりかはイラストレーターの卵で、誰よりも真剣に絵と向き合ってきました。作品をネットに投稿し、ハートがつくたびに励まされる日々を送っています。しかし周囲から聞こえてくる「また単位落としたわー」「締切また間に合いそうにない」などの声を聞くと、みりかは「授業を受けると決めたのは自分、課題をやると決めたのも自分、仕事をすると決めたのも自分、やるって決めたの自分(おまえ)じゃん」と、周囲への苛立ちを募らせていました。

そんなみりかが所属している研究室の仲間は、苛立ちを感じている周囲の人たちと同じく課題に消極的でした。その様子を見ていたみりかは思わず「なんで描かないの…?遊んでる暇があるなら、羨ましがるなら、描けばいいじゃん」と口にします。その言葉を聞いた仲間の1人は、みりかに対して「押し付けんなよ、ウザいから」と言い、明確に拒絶をするのでした。

実はみりかは高校時代にも、同じようにやる気を出さない仲間と衝突して孤立してしまった過去がありました。その時の思い出が蘇り、みりかは不意に涙を流します。

その後、場を納めてくれた担当講師に連れられ休憩することになったみりかに、講師は静かに「リビド、という言葉を知っているかな?」と口を開きました。講師は続けて、リビドは人が動く理由であることを説明し、本気で美術で生きると決めたのなら、他人に振り回されてはいけないと、みりかの背中を押したのでした。

展示会当日、みりかは自作を見上げていると、そこへ1人の女性・寒河江に声をかけられます。彼女はネット上に公開している作品をいつも評価してくれている人です。彼女は、みりかのおかげで自分も頑張れたことを情熱的に伝えます。孤独だと思っていた道の先で、ようやく同じ熱量の存在にみりかは出会うことができたのでした。

読者からは「自分を理解してくれる仲間が欲しかったのかな」や「涙が出ました。私もがんばります」などの声が多くあがっています。そんな同作について作者の禾屋眺さんに話を聞きました。

■「全ての人が人生を美術に捧げるわけではない」を念頭に

-「リビド」という言葉が象徴的ですが、同作を描くきっかけを教えてください。

pixivに掲載している「天才コンプレックス」「エンターテイナーの呪い」と共に、卒業制作のひとつとして構想しました。

ざっくり言うと「美術系大学生あるある」を描こうと思い、本作は「やる気、熱意」をテーマとして制作に至りました。タイトルは3作共通で「カタカナ」+「漢字」にしようと思い、「リビド(リビドー)」を選びました。

-同作はご自身の体験談などが反映されているのでしょうか。

本作を制作したのは私が大学の美術専攻4年生で、よくあることなのですが、卒業後に美術の道に進むか進まないかで大きく別れます。

私は周りに恵まれていて、友達同士でアドバイスし合ったり……ができたのですが、おそらくこうしたことができない、孤独なまま創作する人もいるだろうな、と思いながらこの話を描きました。

-作中のセリフや表現は、どのように生まれたのでしょうか。

「全ての人が人生を美術に捧げるわけではない」を念頭にしていました。

「人は人、自分は自分」です。先生のセリフに関しては、まさに卒業制作のときに言われたことを、漫画的に、ドラマティックにさせて頂きました。

主人公のセリフに関しては、押し付けることはいけないけれど、影響されすぎてもいけない、特に美術という個人の思想が反映される学問においては、それが重要だと思っています。ですが仲はまだ大学生ですので、考えが至らない、若さゆえの暴走もあるだろうとのことで、少し自分本位なセリフにしました。

(海川 まこと/漫画収集家)