どこからどう見ても、木の枝がポキッと折れたようにしか見えないこの物体。「ツマキシャチホコ」という蛾(が)の仲間だ。
外観の模様もさることながら、頭部の色合いといい形状といい、折れた枝の断面が見事に再現されている。
まるで誰かが意図して作った芸術品のような昆虫だ。実は日本中に分布していて、珍しい種ではない。
■完成度が高すぎる擬態
あらためて、よく観察してみよう。見れば見るほど、擬態の完成度が高いことに感動すら覚える。
枯れ枝にしか見えないから、昆虫が苦手な人でも思わず見入ってしまうはず。
倉敷昆虫館(岡山県)で「ツマキシャチホコ」の研究をしている学芸員によると、「落葉広葉樹などの小枝をモデルとした擬態と捉えた方がよいと思います。私も野外でだまされることがあります」とのこと。
この「ツマキシャチホコ」は、雑木林やその周辺に生息するシャチホコガ科の一種で、翅(はね)を閉じると落葉広葉樹の小枝そっくりの姿になる。
特に印象的なのが、枝が折れた断面のように見える頭部だ。ただ枝に似ているだけではなく、「折れた枝」という状態まで再現している点に驚かされる。
ところが、翅を広げた姿は、まさに蛾そのもの。そのギャップが面白い。
人に害を与えることはなく、大発生するタイプでもないため、害虫として問題になることはほとんどない。
ちなみに「ツマキシャチホコ」の「ツマキ」は、前翅の先端「褄(つま)」が黄色いことに由来する。「シャチホコ」は、幼虫が城の天守閣にある鯱(しゃちほこ)のような姿をとる種がいることから名づけられた。
■あなたが見ているその枝 もしかすると「ツマキシャチホコ」かも
「ツマキシャチホコ」の大きさは50~60mm。北海道から九州まで広く分布しており、幼虫はコナラ、クヌギ、ミズナラ、アベマキなどブナ科の樹木の葉を食べて育つ。10月頃になると、蛹(さなぎ)になるため土の中に潜り、そのまま越冬する。年に1回発生し、6~8月頃に成虫の姿を見られる。
生息域について、倉敷昆虫館は「幼虫のエサが落葉広葉樹なので、そのような森林を生息地にしています」と説明している。
では、成虫は何をエサにしているのだろうか。大阪市立自然史博物館にも問い合わせたところ、成虫はエサを摂らないという。
「シャチホコガ科の成虫の口は退化していて、成虫は何も食べません。ですから、寿命は極めて短いです。尚、天敵は鳥や肉食昆虫やクモなどです」
雑木林の近くを歩いていて、ふと枯れ枝のようなものがあったら少しだけ立ち止まってみよう。それは、本当にただの枝だろうか?
専門の研究者まで欺いてしまう昆虫だ。もしかすると巧妙な変装で周囲に溶け込んだ「ツマキシャチホコ」かもしれない。
<取材協力>
倉敷昆虫館 https://www.shigei.or.jp/ento_museum/
大阪市立自然史博物館 https://omnh.jp/#gsc.tab=0
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)
























