有名人インタビューがあるなら、無名人インタビューがあってもいいんじゃないか--。そんな思いから、「無名人インタビュー」と称して一般人へのインタビューを行っている栗林康弘(qbc)さん(@unknown1ntervu)。
2020年の活動開始以来、1300名以上の人生を聞き続けてきた。なぜ、栗林さんは見ず知らずの人の人生に耳を傾けるのか。そして、他人の人生を知ることの面白さはどこにあるのか。活動の裏にある独自の哲学をうかがった。
■有名人じゃない人の人生にもドラマはある
もともと、テレビ通販の仕事に携わっていた栗林さん。仕事柄、有名人と接する機会も多くあった。
「カメラが回っていないときの有名人は、当たり前ですが“普通の人”なんですよね。だったら、一般の人たちの人生にも、有名人と変わらないドラマがあるはずだと思ったんです」
そんな思いから、noteで応募を募り、1回60分の無名人インタビューをスタート。ユニークな活動はじわじわと注目を集め、現在は20名のスタッフとともに組織として運営する規模へと成長した。
「応募してくださった方には、全員インタビューをしています。30代が多く、男女比はほぼ半々。インタビューは1名につき年1回というルールにしています」
初めのころはテーマを決めないフリーインタビューだったが、チームで活動をするようになってからは、現在・過去・未来を軸にして話を聞くスタイルに変更した。
「聞き手と話し手は年齢や性別が異なることがあり、経験してきたことも違う。そんな違う者同士が話せる共通テーマを考えた結果、人生の歩み方を聞くスタイルにたどり着いたんです」
■インタビューは知らない自分を見つけるきっかけになる
さまざまな人生を聞く中で栗林さんが気づいたのは、インタビューが持つ力のすごさだった。インタビューを受けた人たちから、「頭がすっきりした」「癒やされた」といった感想が多く寄せられたのだ。
また、自分の中で断片的だった記憶や経験が、インタビューを通じて一本の線になり、生き方を見つめ直す人も多いそう。実際、引きこもりだった人が、インタビューを受けて自己理解を深め、社会への一歩を踏み出すといううれしい変化も起きたという。
「自分の顔を鏡なしでは見ることができないように、人生にも他人を通さないと見えない部分があります。人に話し、自分の人生についての感想を受け取ることは、自分を知ることにつながるんです」
■“寄り添わない姿勢”のインタビューを貫く理由とは?
他者の人生に耳を傾ける中で栗林さんが最も大切にしているのは、“寄り添わない姿勢”だ。一般的なインタビューやコミュニケーションの場では、共感に重きが置かれやすいが、栗林さんは共感を示すことより“質問すること”に徹している。
そうした考えを持つようになったのは、自分の価値観で相手を理解したつもりになってはいけないと思ったからだ。
「人種差別を受けた人や自死遺族の方にインタビューをしたとき、相手が抱える感情を完全に理解することはできないと思い知りました。だから、寄り添うのではなく、『ただありのままを見つめる』という姿勢で、話を聞くようにしています」
悲しみも苦しみも十人十色な人生に触れるには、近づきすぎず離れすぎもしないフラットな距離を保つことが大事なのだ。
「他人の人生を評価せず、感想も言わず、質問だけするように意識しています。安心して深い話をしてもらいたいです」
■「性」を人生として語れる場所を作りたい
栗林さんが現在、力を入れているのは性に関するインタビューだ。性的な話題はメディアではセンセーショナルに取り上げられやすく、SNSでは下ネタとして消費されやすい傾向にある。だからこそ、安全に性のことを話せて、真面目に考えられる場が必要だと思ったのだ。
「性に関する話はタブー視されますが、本来は誰にとっても身近で人生に深く関わるもの。話したくない人は、無理に話さなくていい。その一方で、話したい人が安心して話せる場所は必要だと思っています」
また、栗林さんの活動は“聞くこと”だけにとどまらない。月1回のインタビューを通して、その人が本当にやりたいことを明確化し、実現に向けてともに取り組む「無名人プロデュース」という活動にも力を注いでいるのだ。
無名人プロデュースは、コーチングのような活動。広告関係の仕事をしていた経験を生かし、SNS運用などのアドバイスやWebサイト制作なども行い、ひとりの無名人の挑戦を後押ししている。
さらに、ペアで話を聞く練習を行い、“聞くこと”をオンラインで学べる「聞く学校」というサービスもスタートした。
「人にじっくり話を聞いてもらえるとうれしいし、聞き手は知らない世界を知ることができてうれしい。旅行みたいに、インタビューも誰もが楽しめる趣味になるように広めていきたいです」
かつては、「コンビニさえあれば、ひとりでも生きていける」と思っていた栗林さん。しかし、さまざまな人の生きざまに触れる中で、「人は人とのつながりなくしては生きられない」と気づき、インタビューに懸ける思いがより強くなったという。
自分の人生を違った視点で振り返りたい方はぜひ、無名人インタビューに応募してみてほしい。
(まいどなニュース特約・古川 諭香)
























