サントラを聴きたくなる、音楽好き必見作。
■NYパンクの聖地
トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンは、2002年にロックの殿堂入りを果たした際の式典でこのような謝辞を述べた。
「俺たちが活動を始めた頃、オリジナル曲を演奏させてくれるクラブはほとんどなかった。ヒリーは演奏する場所を与えてくれた。ヒリーが音楽を存在させた」
ヒリーとは、1973年から2006年までニューヨークのマンハッタンにあった小さなライブハウス、CBGBの創設者ヒリー・クリスタルを指す。
店名のCBGBは、開業当初に流行していた音楽ジャンルであるカントリー、ブルーグラス、ブルースの略。そんなムーディーな名を掲げた店が、その後まさかニューヨーク・パンク/ニューウェイヴの聖地として世界中の耳目を集めることになろうとは…。
10月23日公開の映画『CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所』は、ヒリーの破天荒な生き様と伝説化していくCBGBの勃興を辿る叙事詩的音楽ドラマだ。
ヒリーが掲げた唯一のライブ出演条件は「コピー曲禁止!オリジナルを聴かせろ!」
当時としては珍しかったこのルールが、トレンドから零れ落ちた名もなき若き音楽家たちの創作意欲を刺激。テレビジョン、パティ・スミス、ラモーンズ、ブロンディ、トーキング・ヘッズ、デッド・ボーイズなどなど。独自の個性を放って後の音楽史に足跡を残すことになるミュージシャンたちがCBGBから発信、世界へと羽ばたいた。
ネットもSNSもスマホもない時代。噂や口コミでCBGBは連日連夜の大盛況。大物ミュージシャンや大物プロデューサーがお忍びで来店するようなことも。
■バツイチ&二度の破産
それなのに店の懐事情は常に火の車。家賃も払えず、マフィアまがいの男たちが取り立てに来る始末。なぜならヒリーがあまりにも破天荒だったから。ジャンキーをスタッフとして雇ったり、チケット代も払えないような客も店に入れてタダ酒をふるまったり、明らかに関わったらヤバそうなバンドに惚れ込んで大金を投資したり…。二度の倒産を経験したバツイチ男のヒリーこそ、CBGBの中で一番パンクな生き方を貫いたアウトサイダーだった。
CBGBの立地環境も凄い。当時のロウアー・イーストサイドは犯罪率も高く荒廃しており、店内にはゴキブリが這い、ヒリーの愛犬も所かまわずフンを落とす。パンクのDIYマインドそのままにステージも素人によるハンドメイドで、ライブ中に床が抜けてドラマーが消える。ジャンキーの巣窟と化している階上のホテルからはシャワーの水が漏れ落ちて、ステージで熱唱中のボーカリストを感電させる。
嘘か誠か、劇中ではそんなヒリー及びCBGBの破天荒エピソードの数々が再構築されて、当時の店の熱量を伝えるエネルギーとして描かれる。なおセットで作られた店内の間取りや装飾は実物にかなり近いようで、中でも不衛生なトイレの雰囲気はリアルタイム経験者曰く「かなり忠実」らしい。
枠にとらわれない男ヒリーが、トレンドにとらわれない新しい音を花咲かせようとする種たちに水と光を与えたのは必然だったのかもしれない。伝説になるのには、それだけの理由があるのだ。
「よくわからんが何かある」と直感で若手たちの才を見抜くヒリーを、無骨ながらも憎めない性格までトレースして好演したのは故アラン・リックマン。『ハリー・ポッター』シリーズのスネイプ先生役だった人と言えば顔が浮かぶか。アーカイブ映像を頼りに役作りを行ったそうで、見た目もヒリー本人に結構似ている。
■跡地は高級ブティックに
ちなみに本作は2013年製作。今から約13年前の作品ではあるが、物語自体が1970年代を舞台にしているので13年というタイムラグから生まれる古さは感じない。音楽映画としても秀逸で、CBGBを象徴するバンドたちが多数登場。それらを演じる俳優たちのパフォーマンスも意図的に未熟さを表現しており、当時の音源を採用する事で初期の熱波を伝える事にも成功。ブロンディとイギー・ポップがデュエットする『I Wanna Be Your Dog』やデッド・ボーイズのクレイジーなパフォーマンスなど、実際こうだったのかもしれない感があって面白い。
バンド名はキャラクターが画面に登場してしばらくしてテロップで記されるので、その前に「このバンドは…」と予想しながら観るのも一興だ。映画好きならば『アメリカン・サイコ』監督のメアリー・ハロン登場に「おおっ!」となるかも。ちなみにイギー・ポップを演じているのはフー・ファイターズの今は亡きドラマー、テイラー・ホーキンスだ。
CBGBを彩ったバンドから選曲したコンピュレーションアルバム的サウンドトラックも米国ではリリース済。歌詞の中にCBGBが出て来るトーキング・ヘッズの『Life During Wartime』を映画鑑賞後に改めて聴き直したくなるはず。
CBGBの32 年の歴史の中で、出演させたバンドはおよそ5万にも上るという。撮影には“NYのピストルズ”ことデッド・ボーイズ最後の残存メンバー、チーター・クロームが協力しているが、その彼も今年9月に71歳で鬼籍に入った。創設者ヒリーも最後まで家賃問題に悩まされ、閉店翌年の2007年に75歳で病没。CBGBの跡地は現在、高級ブティックになっているらしい。伝説の渦中にいた人々の記憶が消失していく中で、記録として残された本作は色褪せない異質な輝きを放っている。
(まいどなニュース特約・石井 隼人)
























