30代の会社員Aさんは、月に1度のペースで義両親の家に顔を出しています。そのたびに義母が話し始めるのが、「結婚したばかりの頃、お金に苦労した」という昔話です。最初は微笑ましく聞いていたAさんでしたが、法事や親戚の集まりのたびに同じ内容が繰り返されます。
同僚にこの話をしたところ、「うちも義母が同じ話ばかりする」「相槌を打つのが正直しんどい」と共感の声が相次ぎ、Aさんはこの悩みを抱いているのが自分だけではないことを知りました。
そんな折の敬老の日、義母がまた同じ話を始めた瞬間、うんざりした気持ちが出てしまい、思わず「そのお話、前にも伺いましたよ」と口にしてしまいます。義母は表情を曇らせ、その場には気まずい沈黙が流れました。
この状況にAさんは「事実を伝えただけなのに、なぜか自分が意地悪をしたような後味の悪さが残った」と感じてしまうのでした。このように、家族から同じ話を繰り返し聞かされたとき、正直に「前にも聞いた」と伝えることは、果たして意地悪にあたるのでしょうか。臨床心理士の矢口大雄先生に話を聞きました。
■義母が同じ話を繰り返すのはなぜ?その裏にある心理とは
ー高齢の家族が同じ話を繰り返すことは、どんな心理が読み取れるでしょうか。
老年期は、最も個人差の大きな時期であると言われていますが、高齢者の心理的特徴を考える際には、さまざまな要因が影響している可能性があります。過去から現在まで積み重ねてきた「人生の歴史」の上に成り立っているという視点を持つことが大切です。
このような視点から「同じ話を繰り返す」という行動を捉えると、そこには、これまでの人生を振り返り、「意味のあるもの」として受け入れ、納得を得ようとする心理が読み取れます。また、自分が経験してきたことを次世代に伝え、共有することで、情緒的な充足感を得たいという心理も背景にあると考えられます。
ー何度も同じ話をされたとき、「前も聞いた」と伝えるのは意地悪になるでしょうか。
義両親のご自宅に月1回訪問し、同じ話を繰り返し聞いてこられたことから、お義母様と誠実に向き合ってこられたことがうかがえます。同じ話を繰り返し聞くことにうんざりした気持ちが生じるのは、自然で素直な反応です。
したがって、「前も聞いた」と伝えること自体が意地悪だとは思いません。ただし、先に述べた背景が同じ話を繰り返すことにある場合、話を遮られることで否定・拒絶されたと感じてしまう可能性があります。そのため、客観的事実を伝えるより、お義母様の主観的事実(感じたり考えたりしていること)に寄り添いながら、伝え方やタイミングを工夫してみましょう。
ー聞き役側のストレスを溜めないために、どう受け止めればいいでしょうか。
ご自身とお義母様とでは、出来事に対する時間の感覚が異なることを認識することが大切です。相談者にとっては昔の話でも、お義母様にとっては何度も話すほど強く残っている記憶であり、ある種、現在進行形の問題であるともいえます。
また、世代差により、お義母様が無意識に当時の自分自身とあなたを重ね合わせている面もあり、これはお義母様自身の問題であって、自分の問題ではないと切り分けて考えることも有効です。
さらに、同じ話を聞く負担は、内容そのものよりも「またか」という気持ちから生じていることが多いため、内容を追うことより、話したがる気持ちに意識を向けてみましょう。他の家族を交えたり、家事をしながら聞いたりするなど、集中しすぎない工夫も気持ちを軽くする助けになります。
ー良好な関係を保ちながら、会話を続ける方法はありますか?
どのような親しい間柄であっても、集中して話を聞ける時間には限りがあります。そのため、時間を区切ったり、会う頻度を調整したりすることで、無理なく関係を維持できます。
また、「その困難をどう乗り越えたのですか」と尋ねると、苦労話にとどまらず、前向きな意味づけが生まれやすくなります。
一方、話を遮らず最後まで聞き、「大変でしたね」と受け止めたうえで、「最近〇〇はどうですか」と話題を変えると、お義母様も話の続きにこだわらずに済みます。
質問の仕方や相手の状態によって会話の展開は変わるため、相談者自身がリラックスして臨み、一人で抱え込まないようにしましょう。
◆矢口大雄(やぐち・だいゆう) 助教 和洋女子大学 心理学科
公認心理師、臨床心理士。国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科修了。博士(臨床心理学)。
専門は臨床心理学、家族心理学。認知症高齢者のコミュニケーション支援を主な研究テーマとし、家族心理学や成人・老年心理学、心理的アセスメントなどを担当している。
著書に『家族心理学ハンドブック』(共著、金子書房)、『個と家族を支える 心理臨床実践3 支援者支援の理解と実践』(分担執筆、金子書房)など。
日本心理学会、日本心理臨床学会、日本家族心理学会会員、日本老年臨床心理学会。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
























