連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

(12)スタートライン 団体結成し実態示す
  • 印刷

 「住民票を移してしまうと完全に神戸市から見放されそうなのです。県外にいても、同じように(支援)してほしい」

 二十八日、神戸・ハーバーランドの市産業振興センターで開かれたフォーラム「帰りたい!帰れない」。震災から一年八カ月余りを経て、ようやく市外・県外被災者らの団体「りんりん」が発足した。

 準備に奔走した街づくり支援協会の事務局長、中西光子さん(52)は「ボランティアが県外被災者の実態を代弁するこれまでの形では弱い。被災者の顔が見える団体を立ち上げ、被災者自身が声を出す必要がある」と強調した。

 言葉には、県外被災者の支援に取り組んだ昨夏以降、幾度となく行政と掛け合ってきた実感がこもっていた。

    ◆

 支援協会の事務局は大阪・肥後橋のビルにある。

 一角に置かれたフリーダイヤルの電話は、八月末から頻繁に鳴るようになった。県外被災者らが参加した大阪での初の集会を、マスコミが一斉に伝え、協会の存在があらためて広まったからだ。

 「避難所で肺炎になり、周りの人にうつしてはいけないと大阪の民間賃貸住宅に入った。西宮に戻りたいが、復興住宅は仮設が優先。どうせあかん」(70歳、男性)

 「神戸市兵庫区で被災し、岡山に移った。今、姫路市の病院に入院しており、非常に心細い。わらにもすがりたい」(67歳、男性)

 切実な訴えが受話器の向こうから響く。泣き声に変わる人もいる。

 一カ月間に約三百件の電話を受けたボランティアの津田玲子さん(38)は「あきらめともとれるため息が漏れるのです。でも、やっぱり戻りたい。その思いは強い」と話す。

 津田さんは必ず「市町の広報紙を送ってもらっていますか」と尋ねる。三人に二人が「ノー」である。今月中旬に抽選があった復興住宅の一元募集さえ、知らない人が少なくなかった。

 「帰りたいと思っていれば、広報紙の郵送を依頼するはず」と被災地の行政担当者は話すが、その認識は現実とかけ離れていることを示している。

    ◆

 フォーラムには、兵庫県や神戸市の幹部、被災市の担当者らも参加した。

 冒頭、街づくり支援協会の会長で、フォーラム実行委員長の小森星児さんは言った。「協会が県外被災者へのボランティアを始めた時、個別の対応で十分だろうと思っていた。いずれ行政の手が届くだろうと」

 あいさつを求められた県生活文化部の宮崎秀紀部長は「どうあいさつをしたものか、頭を抱えながら登壇した。離れていることでコミュニケーションの問題もあるが、みなさんの希望を聞きながら改善の努力をしたい」と話した。

 ようやく県外被災者の存在が認識されようとしている。しかし、兵庫県が九月補正予算案に組んだ県外被災者向け施策は、二カ月ごとに発行する情報誌と、電話やファクスによる県政情報の提供、相談体制の充実だけだ。

 フォーラムに参加した県外被災者の一人は壇上から訴えた。「私たちのことを正しく把握し、きめ細かな行政をお願いしたい」

 今になって、実情を訴えることから始めなければならない。もう震災一年九カ月目というのにである。

1996/9/30
 

天気(9月8日)

  • 33℃
  • ---℃
  • 40%

  • 33℃
  • ---℃
  • 40%

  • 34℃
  • ---℃
  • 20%

  • 35℃
  • ---℃
  • 40%

お知らせ