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格差なく対応を
 全国各地に避難した被災者を四人の記者が訪ねた。その数も実態もはっきりしない、行政もつかんでいない、どんな暮らしをしているのかという疑問が出発点だった。緊急避難的に県外に出た後、戻りたいと願いながら、そのままとどまっている人が少なくなかった。行政の支援は手薄で、孤立感は強かった。取材した西海恵都子、松岡健、小林由佳、三沢一孔記者が、取材メモをもとに、今後の支援の方向などを話し合った。

-小林- 岡山県営山陽団地の人たちと会い、見捨てられているという孤立感の強さに驚いた。被災地に戻る世帯もあるが、高齢者ら、いわゆる弱者が多く残っている。その現状は仮設と同じ。「仮設でいいから戻りたい」という言葉に現実の厳しさを感じた。
-松岡- 千葉の女性から送られてきたはがきには「存在を忘れられているのではないかと思っていました」とあり、感謝の言葉がつづられていた。せめて市町から「今、どうしていますか」というはがきが一枚でもあれば、と思う。
-西海- 新潟で話を聞いた女性は「こんなに思いきり関西弁を話したのは久しぶり」と涙を浮かべた。慣れた土地を離れて暮らす精神的なつらさは、想像以上だった。

-三沢- みんな何とか自立しようと頑張っていた。それなのに、制度のすき間に落ちてしまうケースがある。被災事業者向け融資の利子補給などが、県外というだけで対象にならないのも一例だ。
-西海- 民間賃貸住宅の家賃補助が、県外は対象外ということへの不満はたくさん聞いた。住民票を移さず被災地に税金を払い続けている人は、なおさら納得できない。行政の事務手続き上の問題があるというが、被災者の側に立って考えてほしい。
-小林- 支援策のうち、何が県外も対象になり、何がならないのかが非常に分かりにくい。被災者の問い合わせに、たまたま電話に出た行政の職員が勘違いし、誤った内容を伝えていた。情報が乏しいから、そのままになりがちだ。
-松岡- きちんと広報を読んでいる人も、神戸の友人に電話で聞くという。活字を口コミ情報で補強しないと分かりにくい制度が多い。点在する被災者の情報過疎は明らかだ。
-三沢- 県外被災者の問い合わせに一元的に応じる窓口を行政に設ける必要がある。

-小林- 心配なのは、県外の公営住宅などでの孤独死だ。被災地に戻りたいと強く願いながら、高齢や経済的事情から、あきらめざるを得ない人が多い。気持ちはなえがちだった。
-松岡- 精神的な支えが必要だ。広島で被災者を支えるボランティアらは、戸別訪問をしていきたいと話していた。九月二十八日には全国に散らばる被災者を支えようと、ボランティアネットワークが発足した。活動に期待したい。
-三沢- 県外被災者の実態は見えにくいが、どこにどんな人がいるかを把握することが、支援のとっかかりだ。
-西海- 行政は必要なら被災者の方から求めてくるだろうと受け身の姿勢。どう求めたらいいのか分からない人がいる。そのことを踏まえていない。復興住宅の申し込み手続きは複雑で、仮設には行政の職員が説明に行った。少なくとも、山陽団地のように被災者がまとまって暮らす所には出掛けるべきだ。

-小林- 行政は対象のすべてに対策を講じるか、まったく動かないかのどちらか。公平性を重視するからだろうか。
-松岡- 県外被災者は県や市に足を運んでほしいという思いが強い。できるところからやっていけばいい。
-西海- ある行政担当者は「県外に出た人は仮設にいる人より総じて力がある」と言った。実態を知らないと感じた。義援金や住宅の申込書、他府県の公営住宅入居者リストなど、行政は手持ちの資料をもとに、できる所から実態把握を進めてほしい。
-松岡- 今、生活再建の施策が焦点になっている。選挙を前に、与党が生活再建支援金を、新進党が特別見舞金の創設を打ち出している。県外被災者を含めて検討してほしい。
-三沢- 県内、県外と分けて考えるのではなく、同じ被災者としてとらえることが大事だと思う。

=第12部おわり=

1996/10/1
 

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