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(7)差別生む府県境 東大阪 民間家賃補助は対象外
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 台所の窓から大阪平野が見渡せる。背後には生駒山が迫っている。

 グラフィックデザイナーの福井満さん(46)方は、東大阪市の四階建て民間賃貸住宅だ。「安いところ、安いところと探していたら、奈良県の境にまで来てしまった」と、妻の晴子さん(49)は苦笑いする。

 神戸市兵庫区の賃貸マンションは震災で全壊。一週間後、家を探し始めた。神戸に近いところから当たったが、家賃十数万円の高額物件ばかり。何十軒と不動産屋を訪ね歩いた。

 JR環状線の鶴橋駅から近鉄奈良線に乗り換え、九つ目の瓢箪山駅まで二十分弱。駅から住宅街を縫って歩いて二十分余り。満さんの仕事場兼用の2DKは、共益費込みで月五万九千円だ。

 「自分たちの力で何とかしないと。被災者ということで、してもらってばかりではいけない」。晴子さんは家を探し始めた時、そう思っていた。満さんも「仮設住宅のことは全然、頭になかった。ご老人や体の弱い人たちが対象だと思っていた」という。

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 だが今、晴子さんは「同じ被災者なのに、どうしてこんなに差別されるのか分からない」と憤る。

 兵庫県が七月に発表した民間賃貸住宅の家賃補助制度は、一九九八年三月まで最高三万円、その後九九年三月まで二万円、二〇〇〇年三月まで一万円を補助する。十月から受け付けが始まる予定だが、対象は県内の住宅に限られている。

 「(被災地を)見限った人は知らん、てことと違いますか。見限ってはいないんですけど。県外にも所得によって支援の仕組みがあっていいと思う」

 満さんはフリーになって二十年。バブル崩壊後に仕事は減り始め、震災前から厳しい状況だった。震災が追い打ちをかけた。つながりがあった神戸の仕事はほとんどなくなった。貯金を取り崩す生活が続くが、ライフワークである祭りの絵を精力的に描いている。

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 「神崎川を渡ってしまえば(行政の支援は)ないということです」。県外被災者を支援するボランティア団体「街づくり支援協会」の事務局長、中西光子さん(52)は、府県境の壁をこんなふうに表現した。

 たまたま県外の住宅に住んだばかりに、支援の対象外に置かれた。住民票を元の居住地に残したままでも同じ。なぜなのか・。県外被災者は納得できない。

 県の担当者はこう説明した。「制度は市町と被災者、家主が三者契約を結び、市町から家主に補助する仕組み。県外でやろうとすれば、全国約三千二百もの自治体にお願いしなければならない。実務的に不可能です」。そして付け加えた。「県内に戻って来てもらえば、対象になる」

 福井さん夫婦はこの夏、災害復興住宅の一元募集に申し込んだ。結果待ちの段階だが、仮設住宅の入居者が優先されるため、期待はできない。

 「貯金も底をつきかけている。県内の民間賃貸住宅に引っ越すにも、保証金や運送費に最低百万円かかる。経費をねん出しようとすれば、なけなしのお金をつぶすことになる」と晴子さん。

 恒久住宅に転居する世帯には、実質無利子の特例貸付制度が設けられた。しかし、民間住宅の居住者は、この制度でも対象外である。

1996/9/23
 

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