宝塚歌劇花組公演「鴛鴦(おしどり)歌合戦」が7日、宝塚大劇場(兵庫県宝塚市栄町1)で開幕した。時代劇映画の名手マキノ正博監督による1939年公開の傑作オペレッタの初舞台化。モノクロ時代劇が、令和の宝塚で、総天然色に生まれ変わり、フレッシュな魅力あふれる作品に仕上がった。
「めぐり会いは再び」シリーズなどを手がけた小柳奈穂子が潤色・演出。映画にはないお家騒動のオリジナルエピソードで物語に奥行きを持たせ、小柳らしい、見る者を幸せにするラブコメディーとなった。
トップスター柚香光(ゆずか・れい)が演じるのは長屋住まいの素浪人、礼三郎。隣家で傘張りをなりわいとする浪人の娘、お春(星風=ほしかぜ=まどか、トップ娘役)との恋のさや当てを軸に、骨董(こっとう)狂いの殿様(永久輝=とわき=せあ)もからんでのドタバタ劇が繰り広げられる。
礼三郎はとにかくよくモテる。お春をはじめ、金持ちの料亭の娘やいとこからも思いを寄せられる。だが当の礼三郎自身は、お春のことを思いながらも、恋には奥手。柚香が多く演じてきたリードする男性像とはひと味違う役どころ。
現代的な顔立ちの柚香だが、着流し姿がぴたりとはまり、かつらも似合う。低音の声で落ち着いた男っぽさを演出。背筋はシャンと、武士を思わせる立ち居振る舞い、所作の美しさがモテ要素に説得力を与えた。役の幅と、日本モノへのはまりぶりに、柚香の新境地を見た気がした。
そんな礼三郎の煮え切らない態度にじりじりするお春が抜群にかわいらしい。恋のライバルが礼三郎に接近すると、ちょっと意地悪したり、「ちぇっ」とすねてみたり。星風自身にとってほぼ初めてという和モノの歌謡曲も歌いこなし、見る者がつい感情移入したくなる、おきゃんな年頃の娘をつくりあげた。
永久輝演じる殿様は政(まつりごと)そっちのけで骨董にうつつを抜かし、家来や正妻をあきれさせる。永久輝は大仰な動きや高らかな歌唱で陽気な殿様を生き生きと表現。身勝手ながらどこか憎めない、愛すべきキャラクターに仕立てた。
小道具の傘の使い方もうまい。開いてくるくる回しながらの総踊りは舞台に花を咲かせる。礼三郎とお春の相合い傘には古典的な胸キュン要素がふんだんに。終盤の立ち回りでは刀代わりにもなった。映画で使われた音楽をそのまま生かしながらスイング調のアレンジも。「ズンチャチャ、ズンチャ」のリズムは耳なじみよく、楽しい余韻がいつまでも残った。
後半のレビュー「GRAND MIRAGE(グラン・ミラージュ)!」は岡田敬二が作・演出し、宝塚らしい華やかさと上品さに満ちたステージとなった。
プロローグではアジサイの花をイメージしたパステル調の青やピンク、緑、紫の衣装が舞台を彩る。娘役たちのドレスの裾が揺れ、観客を一気に幻想的な夢の世界にいざなう。
ミラージュには蜃気楼(しんきろう)の意味があり、続く2章では、砂漠でさまよう将校役の柚香が、オアシスの精のような星風と出会う。妖艶な雰囲気を漂わすデュエットは必見だ。中詰めの「シボネー・コンチェルト」ではラテン音楽に合わせ、フリルたっぷりの白と青の爽やかな衣装を激しくゆらし、熱気に満ちた踊りを繰り広げた。
ミュージカルでハッピーに、レビューでうっとりと。外の暑さを忘れ、心が喜ぶ3時間だった。
8月13日まで。9月2日~10月8日、東京宝塚劇場で。(小尾絵生)