150年ぶりにえびすかきを再興した武地秀実さん。えびす様のような笑顔で、周囲に福を振りまいた(提供)
150年ぶりにえびすかきを再興した武地秀実さん。えびす様のような笑顔で、周囲に福を振りまいた(提供)

 「えべっさ~んがやってきた、幸せ配りにやってきた♪」。お囃子(はやし)に合わせえびす様が登場すると、場がぱあっと華やいだ。おいしそうに杯を乾かし、大物のタイを右へ左へ格闘しながら釣り上げる。観衆から笑いが起きると、その人はこの上なくうれしそうに笑った。西宮市の「人形芝居えびす座」座長を務めた武地(本名・小笠原)秀実さんが3日、68歳で亡くなった。「えびすかき」の再興とまちづくりに尽くした20年。その思いを受け継ぎ、地元中学生らが6月の舞台に向けた練習に励んでいる。(広畑千春)

 武地さんはフリーライターを経て2001年、西宮・芦屋の地域情報誌「ともも」を創刊した。事務所を置く西宮中央商店街は阪神・淡路大震災で8割の店舗が全壊。街が様変わりする中、なんとか特色を出そうと歴史をひもとくと、室町時代に全国にえびす信仰を広め、文楽の源流になった西宮の傀儡(くぐつ)師(人形遣い)が浮かんだ。明治に途絶えた文化を復興とまちの核に-。でも誰が? 「そしたら武地さんが『私が』ってね。唯一無二の人だった」。同商店街振興組合元理事長の松下治正さん(73)が振り返る。

 06年にともものライターで囃子方の松田恵司さん(63)らと「人形芝居えびす座」を結成し、わずかに残る文献をたどって人形を再現し、狂言を習い、文楽の人形遣いを学んだ。08年には商店街内に「戎座人形芝居館」がオープン。地域ネタや漫才の掛け合いを盛り込んで独自の台本に。豊かな表現力やしなやかな動きはモダンダンスで鍛えたたまものだったという。