昔ながらの「まちの社交場」が、また一つ姿を消す。神戸市兵庫区三川口町1の銭湯「東湯(あずまゆ)」。住民や常連客の汗と疲れを洗い流し、真冬の震災に耐える被災者の心と体も温めた。現在の経営者家族が、銭湯名と設備を引き継いで約70年。「わが家のお風呂」として親しまれてきたが、新型コロナ禍や物価高が重しとなり、今月末でのれんをおろすことにした。(井筒裕美)
■「豆腐店とは正反対」
銭湯を切り盛りするのは平岡徹朗さん(51)純子さん(50)夫妻と、徹朗さんの母彌生(86)さん。国道2号沿いにあり、深風呂に加え、電気風呂や日替わり風呂を楽しめる。浴場壁面を飾る女神像の彫刻がトレードマークでもあった。
もともと豆腐店を営んでいた平岡さん一家。1956年、徹朗さんの祖父が東湯の経営を譲り受けた。徹朗さんは「冷たい水を触り、朝が早い豆腐店とは正反対。しかももうかると聞いていた」と笑う。銭湯名も引き継ぎ、多いときには近隣住民に加え、中央卸売市場(兵庫区)で働く人ら1日300人以上がのれんをくぐった。