モーグルでの五輪出場を目指す藤木豪心さん=2月、札幌市(新井康さん撮影)
モーグルでの五輪出場を目指す藤木豪心さん=2月、札幌市(新井康さん撮影)

 6日で開幕まで2カ月となるミラノ・コルティナ冬季五輪出場を目指すテレビマンがいる。フリースタイルスキーのモーグル選手で、サンテレビ(神戸市中央区)社員の藤木豪心さん。昨季、派遣基準をクリアし、夢の大舞台行きが現実味を帯びる。現在は休職し、五輪切符を懸けた戦いに専念する28歳は「感覚は良い。自分の滑りで五輪へ向かいたい」と悲願を期す。(初鹿野俊)

■阪神戦中継担当 選手の助言、強みに

 10月初旬、藤木さんは甲子園球場(西宮市)のバックネット裏にいた。プロ野球阪神タイガース戦の中継前。機材や段取りの確認に追われ、番組中は放送席の出演者に指示を送った。この日は2季ぶりに優勝を飾ったセ・リーグの最終戦。入社3年目のディレクターは「強い阪神しか知らない」と笑みをこぼす。人気番組「熱血!タイガース党」のほか、ヴィッセル神戸や高校サッカーも担当。「真面目、丁寧、一生懸命。仕事相手としてすごく刺激を受けている」(湯浅明彦アナウンサー)と同僚からの働きぶりへの評価は高い。

 雪山のない大阪府阪南市出身。スキー好きの父の影響で3歳から板を履き、信州などで腕を磨いた。9歳でモーグルの大会に出場。中学、高校では全国優勝を経験し、立命館大時代の2017年にはワールドカップ(W杯)5位入賞を果たすなど国内外で実績を築いた。だが五輪は遠かった。18年の平昌大会、休学して狙った22年北京大会も届かなかった。

 23年にサンテレビ入社。第一線からは退くつもりだったが、休日を使って大会に出たところ再びW杯出場権を得た。上司の後押しを受けて参戦を続け、今年3月のW杯アルマトイ大会(カザフスタン)で2人同時に滑るデュアルモーグルで8位に入り、ミラノ五輪派遣推薦基準を満たした。

 仕事の傍ら、ジムで体を動かすのがルーティン。五輪候補の選手でフルタイム勤務は異例だ。だが一流アスリートと接する職業は強み。尻のストレッチは阪神の近本光司選手、トレーニング前の瞑想(めいそう)は大竹耕太郎選手から教わり、「ディレクターをやってて良かった」と笑う。

 10月中旬から休職。今月から来年1月中旬までのW杯で2種目計9戦でポイントを積み上げ、最大4の五輪枠を狙う。「けがのリスクもあるし、忙しい時期に『頑張ってこい』と許可してもらった」と職場への恩返しも込め、必勝を誓う。

 同じくスキーヤーの妹日菜さん(24)=武庫川女子大大学院=も五輪代表は圏内。きょうだい同時出場となれば、モーグル界では世界的にも異例という。