神戸・元町の老舗「亀井堂総本店」の工房に、甘い香りが漂う。金属製の型に慣れた手つきで生地を流し込み、焼き印を押していく。
その大きさは、一般的な屋根瓦とほぼ同じ27センチ四方。名物の瓦せんべいの中でも、限られた職人にしか作れない「特大瓦」だ。
生地は、スプーンのような「さじ」で型に入れる。その分量は、計量器を使わなくても常に等しい。湿度で変化する生地の状態を見ながら、3・8キロの焼き印を押す力加減を微調整する。一つ一つの作業に、積み重ねてきた58年の経験が宿る。
1967年春、明石市の中学校を卒業。きょうだいが多く、妹の進学を考えて働き始めた。学校に求人があったので応募したといい「会社も商品も知らなかった」と笑う。