(この連載は、WHOの自殺報道ガイドラインに則り、精神医療の専門家の助言を受けています。記事中、個人名の敬称は省略しました)
神戸市北区の住宅街。一軒家の前で、怒声が響いた。
「出てこい、奥谷!」

兵庫県議会の百条委員会委員長だった奥谷謙一の自宅兼事務所前で、「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志がマイクを握っていた。
竹内英明らを知事失職の「黒幕」と決めつけた文書を、県議の岸口実が同席する場で受け取った2日後、2024年11月3日のことだ。
拡声器を家の方に向け、インターホンを押した後、「まあ、あまり脅して奥谷さんも自殺されても困るので、これぐらいにしときますけどね」と笑った。その言葉に群衆がどっと笑い、拍手がわき起こる。
立花は直後、百条委員の竹内と丸尾牧の名を挙げ、「事務所にも行きます」と宣言した。そして「竹内らを見つけたら教えてくれ」と呼びかけた。
大勢の支持者を引き連れて奥谷の自宅兼事務所に向かう様子はライブ配信され、奥谷は同居していた母親を避難させた。

竹内がこの「襲撃」を知ったのは、丸尾からの連絡だ。
〈竹内事務所前で立花が街宣予告〉〈気をつけてくださいね〉。竹内は丸尾のメッセージを妻に転送し、〈事務所には行かないように〉とだけ書き添えた。
スマートフォンやパソコンの画面の向こう側にあったはずの敵意が、竹内の家族のすぐそばに入り込んできた。
「2馬力選挙」で立花が参戦した兵庫県知事選は異様な盛り上がりを見せていた。同じ会派の仲間が対抗馬の稲村和美の支援に奔走するなか、竹内は「迷惑がかかるから」と応援を断り、ほとんど関わらなかった。
それでも事務所の固定電話がひっきりなしに鳴り、差出人名のない封書やはがきが届く。妻は内容を確認すると、その場でシュレッダーにかけた。
「なんというか、存在するのも嫌で。その場で消し去りたいというか……」
メールも次々に届いた。〈責任を取れ〉〈もう議員など辞めてください〉〈はよ、去れ。射殺もんだろ〉。これらは、有権者の声をいち早く知るため自動転送に設定していた竹内の携帯にも届いた。
画面を開き、すぐ閉じる。その繰り返しだった。

〈黒幕〉〈真犯人〉〈主犯格〉〈百条委の追及はでっちあげ〉
SNSにはすでに、こうした言葉があふれていた。
当初は、「こんなしょうもないの、誰が作ってんの」と笑い飛ばしていた竹内だが、「警察に事情聴取されているらしい」という書き込みが徐々に広がり、親しい知人にまで「実際はどうなっているの?」と問われるようになると、「つらい」とこぼすようになる。
一日中、スマホを握りしめて誰かと連絡を取り合い、日中はほとんど自宅にいなかった活動的な竹内が家にこもった。
仲間に送ったメッセージには、〈事務所は参院選まで閉めることにした。完全に威力業務妨害です〉〈自分が表に出れば火に油を注ぐ。立花に直接対抗するのは無理だと思う〉と記している。
このころ、夜中に議会控室で一人、机やロッカーの荷物を黙々と整理する竹内の姿が目撃されている。
・その光景を目にした竹内の妻と家族は、息をするのも怖くなるような恐怖と孤立感へと追い込まれていく。
この続きは会員限定でお読みいただけます。























