(この連載は、WHOの自殺報道ガイドラインに則り、精神医療の専門家の助言を受けています。記事中、個人名の敬称は省略しました)

 元兵庫県議・竹内英明の「疑惑」として最初に取り沙汰されたのは、姫路ゆかたまつりだった。まずはこの経緯からたどっていく。

毎年6月に浴衣姿の市民らでにぎわう姫路城周辺=1月15日、JR姫路駅前

 2023年6月24日。兵庫県知事の斎藤元彦は、この祭りに参加している。

 当初は姫路城にほど近い城南公民館で浴衣に着替える予定だったが、直前になって着替え場所を変更。公民館のそばに車を止めたものの中には入らず、近くの貸衣装店で着付けをした。ここまでは、県と、当時現場にいた人たちへの取材で事実と確認されている。

 このあと、いくつもの言葉が、この出来事に重ねられていく。

 1年後の2024年6月18日、県議会総務常任委員会。

 竹内は、知事の斎藤が着た播州織の浴衣が民間団体から無償貸与されているのに、公有財産としての書類がないとただした。

 資料を求めると「無償貸与なので公有財産規則に基づく書類はない」との回答で、「公有財産なのに資料がないのはおかしいのではないか」と追及している。

西二階町商店街のアーケード。斎藤元彦知事は、入り口左にある城南公民館には入らず、呉服店に向かった=姫路市西二階町

 この問題に「知事のわがまま」という要素をメディアで最初に加えたのは、週刊誌「アエラ」が竹内の質問から8日後に配信したネット記事だった。

 タイトルは〈斎藤・兵庫県知事パワハラ疑惑、噴出が止まらない 姫路ゆかたまつりで『特別扱い』のワガママ〉。

 記事の中心は竹内を情報源にしていた。

 〈竹内氏が得た情報によると、当日の様子はこうなる〉と前置きし、前年のゆかたまつりの状況を描写している。

 着付けのため、城南公民館に案内された斎藤は「みんなと着替えるのは嫌だ」「ちゃんとしたプロの着付けの人はいないのか」と発言し、「激怒ぶりにあわてた事務方が地元の和装店に連絡、その和装店で一人だけ着付けをしてもらったという」。

 さらに、〈姫路市関係者によると〉と取材対象者をぼかし、「浴衣の着付けを手伝うボランティアの人たちにも斎藤知事の怒声は聞こえていた」と記した。

 この記事がネットにアップされた日、竹内は自身のブログでリンクを張り、知事の着付けに公費が支出されていたことを確認した、と報告。〈姫路市長や商工会議所幹部は公民館で着付けをしたのに、知事だけに公費を使う必要があったのか〉と再度、疑問を投げかけた。

 ただ、この時、〈関係者から聞いた〉という情報も付記した。それは、こんな伝聞だ。

 〈プロでもない着付けは嫌だと急にわがままを言った〉〈姫路市の担当に当日キャンセルを食らわせ怒らせた」「公民館には地元婦人会が控えており、知事が来ることも知らされていた〉

 

合計で200ページを超える県職員アンケート調査報告書

■形を変え広がる

 そもそも竹内が問題視したのは、行政が民間団体から物品の無償貸与を受けた際の手続きや、公金の使途だった。だが、ゆかたまつりは斎藤の「わがまま」や「パワハラ」を象徴するエピソードとして、時間とともに形を変え、広がっていく。

 その最大のきっかけが、告発文書の真偽を調査する兵庫県議会の調査特別委員会(百条委員会)が実施した「職員アンケート」(7月31日~8月14日、職員9700人が対象)だ。

 内部事情を知るはずの県庁職員から、竹内やアエラが発信した内容とは違う「情報」がいくつも加えられていた。

 アンケートは幅広く情報を集めるためウェブで実施し、職員が①「目撃(経験)等により実際に知っている」ことに加え、②「目撃(経験)等により実際に知っている人から聞いた」 ③「人づてに聞いた」も募っていた。

・〈姫路ゆかたまつりの出禁は有名〉

・〈『おれは知事やぞ!そんな素人にさせるな!』と怒鳴り、職員に姫路中の呉服店に電話をかけさせて手配させたと聞いた〉

などだ。

 こうした回答は、②や、③の「人づてに聞いた」という「伝聞の伝聞」情報に分類されていた。

 だが、多くのマスメディアは真偽の裏取りをしないまま紹介した。

 インターネットの分析ツール「ソーシャルインサイト」の解析では、こうしたテレビ放送を契機に、「浴衣 知事」「ゆかた 知事」といったキーワードを含む投稿がSNSで急増したことが分かっている。

 「知事のパワハラ疑惑」が注目される中、伝聞情報は雪だるま式に脚色されていった。

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