(この連載は、WHOの自殺報道ガイドラインに則り、精神医療の専門家の助言を受けています。記事中、個人名の敬称は省略しました)

2023年の姫路ゆかたまつりで、地元婦人会らによる着付けが行われた城南公民館=姫路市西二階町

 元兵庫県議・竹内英明を巡る「姫路ゆかたまつりの疑惑」。前回は、伝聞情報がどう脚色され、広がっていったかをたどった。では、現場を知る人たちは、どう見ていたのか。

 当時の中播磨県民センター長は、こう説明する。

 兵庫県知事の斎藤元彦は、西脇市のNPOから提供された播州織の浴衣2種類(黒と白)のどちらが祭りにふさわしいか迷っていた。

 センター長は姫路に向かう途中、秘書室長から、専門家に見てもらいたいと相談を受けた。斎藤が城南公民館前に到着した際、姫路市の担当局長に紹介された貸衣装店を伝えると、斎藤は「そこに行きたい」と答えた。このため公民館には入らず、店へ。斎藤は2着を試着した。黒は着丈がやや短いとされ、「よく似合いで」とほめられた白を選んだという。

 アエラが書いた〈知事の怒声〉を聞いた人はいるのか。

 その時、城南公民館にいた館長は「それは絶対にない」と語った。知事の姿は見ていない。来るかどうかすら知らなかった。

 姫路市観光経済局長が観光コンベンションビューローや商工会議所に尋ねてもトラブルの記憶を挙げる人はいなかった。県の秘書室長は当時、現場にはいなかったが、部下から「事務方が怒鳴られた」という話は聞いていない。

 その日、城南公民館で家族と着付けを受けていた姫路市議も「婦人会の皆さんの機嫌がよかった。トラブルがあったら、あの空気にはならない」と振り返る。

2023年の姫路ゆかたまつりで、斎藤元彦知事がゆかたの着付けをしてもらうため歩いた商店街=姫路市西二階町

■一気に全国に

 主催団体の一つの幹部(64)はその日、知事の斎藤に会っている。6月に配信されたアエラの記事を読んだときは「実害がない」と静観していた。

 だが、状況が変わったのは9月、民放のテレビ局から電話取材を受けたときだ。

 その際、知事が「老舗着物店を貸し切った」「今年は出禁(出入り禁止)になった」という話を聞いた。情報源を問うと、「竹内さんがアエラでそう発言している」と説明された。

 「そんな事実はない」。まつりを守りたいと考えた幹部は9月10日、自身のフェイスブックに投稿した。

 自分が知事の担当で、メディアに流れているような事実はないと否定し、〈竹内議員の発言は一部デマだ。出禁にするならデマを拡散している竹内議員の方だ〉と記した。

 ただ、この幹部が最も問題視したのはマスコミの姿勢だったという。〈取材もせず、あおりまくるマスコミも出禁にしたいほどです〉と書いている。

 この投稿は、兵庫県議の門隆志が幹部の了承を得た上で自身のX(旧ツイッター)で拡散。これがニュース記事として「ヤフトピ」に上がり、一気に全国に広がった。

2023年の姫路ゆかたまつりに参加したことを伝える斎藤元彦知事のxの投稿。播州織のゆかたを着ている

「ゆかた(浴衣)・知事」を含むSNS投稿数の推移

 ここで、もう一度整理する。

 「知事が怒鳴った」「出禁になった」という記述は、竹内の県議会での質問やブログにはない。これらの言説はアエラや職員アンケートに記載された伝聞情報から広まった。

 なかでも職員アンケートは「激高」「10万円の浴衣」などセンセーショナルな言葉を並べた。テレビはこれらを引用し、主催団体の幹部は自身のフェイスブックでマスコミを批判した上で、「竹内議員の発言は一部デマ」と書いた。

 ゆかたまつりを巡る言説の過熱化を受け、竹内は9月16日、自身のブログを更新している。

 事実関係を整理して改めて着付けの公費支出の是非を指摘し、こう書いている。

 「この話はドタキャンとあわせて県や姫路市の職員に知事のわがまま話として広まりました。これが私の把握している話であり、下記が公式調査回答です」

 そう記し、着付けに関する県の支出決定書のコピーを添付した。

 だが、当時は斎藤のパワハラの有無が最大の焦点だ。竹内の指摘はほとんど関心を集めなかった。

 こうして、ゆかたまつりをめぐる「伝聞」情報がいくつも重なり、「竹内=デマ」「黒幕」のイメージにつながっていく。(「民意×熱狂」取材班)

<竹内英明元兵庫県議の死から1年>プロローグ・「黒幕」と呼ばれて 誹謗中傷で人は死ぬのか
<竹内英明元兵庫県議の死から1年>【1】ゆかたまつり(上)転がり膨らむデマ 発言ねじ曲げられ

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