音が聞こえにくい難聴の人は、国内に推計1千万人以上いるといわれます。働きながら子ども2人を育てる「母ちゃんさん」(50代)=兵庫県=は20代から聴力が低下し、職場などでのコミュニケーションに壁を感じているそうです。記者がパソコン画面に書き込む質問に、筆談を交えて答えてくれました。
-どんな風に聞こえていますか?
「耳に水が入って、ボーッとなるのに似ていると思います。普段は口元を見ながら話をしますが、コロナ禍でみんながマスクをしていた時は全く分かりませんでした。口の動きが見えないし、声がこもるし…」
「一対一の会話なら何回かで相手の声に慣れ、聞き取れます。でも、会議では空間に音が広がるのか、ワーッとしか聞こえません」
-仕事は?
「仕事は大好きで、定年まで頑張りたい。ただ作業は流れを覚えたら動けるけれど、コミュニケーションではしんどい思いをしてきました。職場では『書いてくれたら助かります。何度も聞きますが、よろしくお願いします』と言っていますが、私に相談なく決まって事後報告のことも」
「波風立てないよう『ふーん』って折れるほうが多いです。でもね、私にもちゃんと意見があるんだよなあ、と。平気って顔で生きてるけど、そんな自分がしんどくなる時があります」
-仕事以外は?
「昔は難聴を隠してうまくいかず、自信を失っていました。買い物に行けない時期もありました。レジでお箸やポイントカードについて聞かれても分からず、受け答えが怖くなって…。そうしたら聴覚障害のある知人が『私は耳が悪くて、お箸はいりません』と先に言ったらいいよ、と教えてくれた。買い物に行けるようになり、自分が変わるきっかけにもなりました」
-自分が変わる?
「聞こえないことを自分から言えるようになりました。『伝わらない』と思って壁を作る相手もいるけれど、紙を探して筆談してくれる人もいる。口の動きとジェスチャーで伝えてくれる人も。ちなみに手話はぼちぼち。聞こえない人は手話という前提で接してこられると困ってしまいます」
-取材に応じたのは?
「耳のこと言いたいな、というのが一番。スルーされるんじゃなくて、興味を持ってもらえるのはうれしいです」(聞き手・中島摩子)