今月のテーマは双子や三つ子などの「多胎児」の子育て。双子の男児を出産し、2人分の授乳や抱っこに追われた経験がある神戸市東灘区の大谷理恵さん(54)に体験を聞きました。大谷さんは現在、当事者を支援する「ひょうご多胎ネット」のピアサポーターとして活動もしており、同じ立場の人同士がつながる場を支えています。
-出産前後の経験は。
「双子の息子の妊娠が分かったのは40歳のとき。うれしさと同時に不安も感じ、本やネットで情報を探しましたが、双子の子育てに関するものは少なくて。そのまま出産を迎え、いきなり新生児2人がいる生活に突入した感覚でした。授乳は多い時でそれぞれ1日20回ぐらいだったかな。1人に授乳を終えて抱っこすると、もう1人が隣で泣き出して、さらにミルクの吐き戻しもあって。いつもどちらかが泣いている状態で、げっぷをさせる余裕も満足にありませんでした」
「夜も2人とも何度も目を覚まし、常に抱っこを繰り返しました。二つの泣き声が家に響き続け、『なんとかしなきゃ』と追い込まれて。子どもの世話や家事だけで、本当に一瞬で毎日が終わってくんです」
-目が回りそうです。
「睡眠が十分に取れないのが本当につらかった。1日のうちで続けて寝られるのは1時間ぐらいだったと思います。幻聴も体験しました。ある日、まだしゃべれない赤ん坊が大人みたいな声で『体重を測れ』と言ったんです。その時は私も真剣で、言われるがまま体重計に乗りました。他の日には同様に『スープの作り方を守れ』と言われる幻聴もありました。今でこそ笑い話にしていますが、例えばあの時『ベランダの外に出なさい』という幻聴だったらどうなっていたか…。危険な状態だったと、何年も後で気付きました」
「当時は夫が仕事で忙しく、『自分が頑張らなきゃ。でも、なんて子育てがへたなんだろう』と自分を責めたことも。今は、もっと周囲を頼れば良かったと思い直しています」
-その後の日々は。
「双子の息子はかわいいのですが、目が離せない悩みもありました。例えば公園でベビーカーから降ろしたら、2人が別々の方へぴゅーっと走って行く。余裕のない日は、遊びたがる息子たちに『ごめんね』と言って帰ることも」
「支えになったのが、双子の親子が集う神戸市主催の『多胎児子育て教室』です。同じ立場で情報交換や悩みを共有でき、心がほどけていく思いでした。市の育児相談で双子を育てた保健師さんと出会い、交流サイト(SNS)でつながった双子のお母さんたちの存在も大きかった。同じような体験に共感し、愚痴をはき出せました」
-ひょうご多胎ネットで支援する側に。
「自分が救われた経験から、今は子育て教室にスタッフとして参加しています。双子の子育ては『授乳は2人同時にする』などのノウハウもあるんです。妊娠中から情報を知っていれば、大変さが変わるはず。自分だけが『子育てがへた』なんじゃありません。悩みに共感し、孤立しないことが大事だと思います」
(聞き手・岩崎昂志)