■自分にできることを探す方が生産的
生きづらさを考える「生きるのヘタ会? てんてん×神戸新聞」、2026年最初のテーマは「人の顔を覚えるのが苦手」です。明石市の一般社団法人理事長、伊藤隆さん(60)がそのことを認識したのは40代の頃ですが、以前から思い当たることがあったそうです。「特性は変えられないんだから、それ以外で頑張ればいい」と伊藤さん。後ろ向きにならない考え方を聞きました。
-子ども時代は。
「思い返せば、小さい頃から顔と名前がしっかりと一致する人は少なかったです。同級生は学校で会えば分かりますが、例えば街で出くわすと誰か分からない、という感じでした。仲の良い子は覚えられますが、クラスで3分の1もしっかりとは覚えられていなかったんじゃないかな。でも当時はそういうものだと思っていただけです。学校の先生は子どもの顔を覚えているので『大人はすごいな』と思っていました」
-困った経験は。
「元々のことなので疑問はありませんでした。記憶力は良い方で、相手の声や話したエピソードなどを覚えるのは得意なんです。顔だけが分からなくても、全体の雰囲気で覚えることはできました。ただ、同じ人でも会う場面が違って印象が変わると認識しづらいのです。会話の流れなどから記憶をたどり、その場しのぎで話を合わせるということはよくありました」
「社会に出てサラリーマンになると、人脈を築くために顔と名前を一致させなければなりませんでした。交換した名刺の裏に相手の髪形や眼鏡、体格などを必死に書き込みました。大きな失敗はしていないと思いますが、例えば休日に上司と社外ですれ違っても分からず、あいさつができません。『生意気なやつだ』と言われていたと思います」
「あるとき(米俳優の)ブラッド・ピットさんが人の顔が覚えられないと語っている記事を読み、自分と同じと思いました。『相貌(そうぼう)失認』とも呼ばれるらしい。ネットで調べたら、チェックシートも驚くほど一致しました」
-当時は障害者福祉の事業所を経営するようになっていた。
「重度障害がある長男のために30代で脱サラし、無認可保育園を設立。その後、一般社団法人『波の家福祉会』としてさまざまな障害者支援施設を設立し、今では東播磨地域などで約40の事業所があります。多数の職員がいますが、実は顔を覚えられているのは一部だけ。自分の特性に気付いてからは、周囲にもそのことを伝えています」
「誰でも苦手なことやできないことがあります。そこは仕組みを整えて、現場の事業は役員制にしてそれぞれに任せています。多人数の会合などは今でも苦手ですが、自分の特性ととらえてやっていくしかないと受け入れています」
-同じ悩みを持つ人に助言を。
「特性は変えようがないので、自分にできることを探す方が生産的だというのが僕の考えです。隠すことではなく、人付き合いなどで周囲に任せられることは任せることも良いと思います。きっと、なんとでもなりますよ」(聞き手・岩崎昂志)
























