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現場を見詰める神川貴実彦さん。姿を消した牛の安否を気遣う=上郡町
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現場を見詰める神川貴実彦さん。姿を消した牛の安否を気遣う=上郡町
放牧されていた牛=上郡町、2021年8月撮影(提供)
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放牧されていた牛=上郡町、2021年8月撮影(提供)

 「牛が盗まれた」。電話で記者にそう告げる情報提供者の声は、ひどく落ち込んでいた。兵庫県上郡町内の山中で放牧されていた牛2頭が9月末、突如として姿を消した。周囲に張り巡らされた電気柵に損傷はなく、牛が逃げた形跡はない。窃盗事件として被害届を受理した県警は捜査を始めたが、現場の状況などには不可解な点も多く、関係者は首をひねっている。(村上晃宏)

■人が入らない場所

 放牧していたのは人材紹介会社「ムービンストラテジックキャリア」(東京)の神川貴実彦社長(52)。目的は里山整備で、電気柵で囲った約2ヘクタールの敷地内にジャージー牛2頭とヤギ2頭を放し、雑草を食べてもらっていた。

 神川さんや同社従業員は牛などの体調を管理するため、週末を中心に東京から訪れていた。最後に無事を確認したのは、神川さんが足を運んだ9月23日午前。次に向かった26日午後には牛2頭がいなくなっていた。ヤギは2頭とも柵内で無事だったが、おびえた様子で近づいてこなかった。

 柵の外側も広範囲にわたって捜したが、牛の姿はない。一帯には牛のふんや雑草を食べた形跡もなく、「盗まれた」と判断して警察に届け出た。

 現場は県道から未舗装の作業道に入り、30分ほど歩いてようやくたどり着く。石や倒木で歩きにくい上、分かれ道や勾配もあり、ハイキングのコースとしては不向きだ。最も近い民家でも直線距離で約2キロ。目的もない人がふらりと立ち入る場所ではない。

 神川さんの取り組みを知っているのも、従業員や数人の町職員、親しくしている一部の町民に限られる。活動内容は写真共有アプリ「インスタグラム」でも紹介していたが、場所が特定されるような発信はしていない。

■類似事件

 柵は高さ約1メートルで、牛が跳び越えたとは考えにくい。電気は24時間流れており、無理に逃げ出したとすればどこかが損傷しているはずだが、それも見当たらない。

 柵内には多くの雑草が生え、沢もある。現場を訪れた農林水産省近畿農政局の職員も「しっかり電気柵があるし、食べ物や飲み物にも困らなさそう。逃走の可能性は低い」とみる。

 類似の事件も実際に起きている。昨年、北関東の群馬や栃木、茨城県などでは、牛や豚、鶏など大量の家畜が盗まれた。

 ただ、神川さんはここで再び首をかしげる。仮に盗んだとして、どうやって運んだか-だ。

 四駆の車両なら現場まで行くことはできるが、神川さんによると、牛は警戒心が強く、あまり人には近づかない。慣れた人でなければ、牛を誘導することは難しいという。

 また、放牧されていたのは生後7カ月ほどの子牛とはいえ、重さは1頭約150キロもある。その場で殺傷したとしても1人で運ぶのは困難で、力持ちが3~4人は必要だ。

■流通は不可能

 疑問はほかにもある。国内の牛には個体識別番号が付与され、国が全頭をデータで管理。番号を調べれば生年月日や性別、飼養地などが全て分かる仕組みとなっている。

 農政局の職員が現場を訪れたのも、牛がいなくなったことを確認してデータを更新するためで、今回は「死亡」扱いとなった。もし今後、姿を消した牛がどこかの食肉加工センターなどに出回ればすぐに分かるため、食肉として流通することは不可能と言える。

 ましてや今回の牛はジャージー牛。乳牛として飼育されるのが一般的で、食肉として売っても大きな稼ぎにはならない。

 「盗まれたのなら、悲しくて憤りを感じる。きっと怖かっただろうな」。神川さんはそう話すと、寂しそうに牛のいない柵の中を見詰めた。

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