人を迎え、人が出会い、人を送る。駅にはいつも、ドラマがある。山陽新幹線が開業し、兵庫県の姫路や相生への停車が始まってから今年で半世紀。赤穂線は昨年、開業７０年を迎えた。一方、在来線では減便が続く。転機の今、地域の玄関口にまつわる物語を振り返ってみたい。

　　　　　◇

　朝７時すぎのＪＲ姫路駅（同県姫路市）。山陽新幹線のホームで、出発前の姫路発博多行きこだま号が長い鼻を伸ばす。車内へ向かう乗客の中に、詰め襟を着た高校生の姿があった。

　相生高校１年の高嶋創（はじめ）さん（１６）。入学以来、自宅のある姫路から毎朝この始発で登校する。「人が少なくて落ち着くし、座っていると気持ちが切り替わるんです」と笑う。

　新幹線通学には理由がある。脊椎に先天性の障害があり、膝から下を通る神経の一部がまひしている。歩行時には両脚を固定する補助具が必要で、長時間立ち続けるのは負担が大きい。

　姫路から相生まで在来線なら２０分ほどかかるが、新幹線なら８分。天体観測が趣味で研究者を夢見る高嶋さんにとって、理系の特別コースがある相生高は理想の進学先だ。定期代は高くつくが「少しでも楽に通学し、授業に集中してほしかった」と母親のあおいさん（４７）に迷いはなかった。

　「気乗りしない日も『新幹線に乗れる』と思うと頑張れます」と高嶋さん。新幹線があるからこそ、可能性に挑戦できる。

　　　　◇

　ＪＲ相生駅には、ひかりとこだまが１日に計５３本発着する。山陽新幹線が止まる都市の中で、相生市の人口規模（約２万８千人）は最も少ない。

　ここで、少し経緯をひもといてみる。停車が決まったのは開通を６年後に控えた１９６６年。石川島播磨重工業の相生工場が、単一工場としては世界一の船舶建造量を誇った頃だ。だが、８０年代に入ると世界的な造船不況が押し寄せ、同工場も新造船から撤退。９８年にはひかりの停車駅から外された。

　人口減が加速する中、２００１年、行政機関や企業、自治会が一体となって「ＪＲ相生駅を愛する会」を結成した。新幹線で大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン（ＵＳＪ）に行くなど熱心なアピールが実ったのか、同年秋には悲願のひかり復活を果たした。

　２代目会長を務めた南條登さん（７６）は「僕らにとって新幹線は未来の象徴。活動は義務であり、楽しみでもあった」と振り返る。

　　　　◇

　そんな山陽新幹線も次の３月で開通５０年。相生市の鈴木ひろ子さん（７１）は、当時のことをよく覚えている。初代「みなとの女王」として開通式に参加したからだ。「風が強くて寒い日でした」と懐かしむ。

　結婚して千葉県に住んでいた２０代の頃は、故郷につながる新幹線が心の支えだった。東京に就職した長男が交通事故に遭ったときは、週末のたびに乗り込んだ。この正月も孫たちを相生に運んできてくれる。

　「今はシャープな『顔』だけど、昔はもっと丸くてかわいかったんですよ」。初代０系新幹線の写真を見詰め、そう教えてくれた。

　今春も節目の記念イベントが開かれる。半世紀前と同様、みなとの女王が運転士や車掌に花束を手渡す演出が計画されている。（地道優樹）

■「政治駅」のうわさは本当？

　新幹線駅を巡っては、時として「政治家の影響力」がうわさに上る。相生駅もその一つだ。

　相生市出身の故河本敏夫氏。自民党の派閥の領袖（りょうしゅう）を務め、首相候補とも目された。なぜ、小さな街に新幹線が止まるのか－。秘書として同氏に２５年間仕えた谷口芳紀市長に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

　「旧国鉄の車両基地を相生市若狭野町に整備する計画があったが、姫路に流れた。それで河本さんが『落とし前』をつけさせた結果、代わりに新幹線が止まることになった」

　ただ、ＪＲ西日本は「裏付ける資料はない」。相生が停止駅に選ばれた理由としては、利用客数が増えていた赤穂線に分岐する点も重視されたという。

　ほかに岐阜県の岐阜羽島駅も「政治駅」とささやかれ、元自民党副総裁の故大野伴睦（ばんぼく）氏の影響力を指摘する声がある。