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坂越まち並み館の展示会場=赤穂市坂越
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坂越まち並み館の展示会場=赤穂市坂越
左手のリハビリを経て切り絵作品を自宅で作る本林俊昭さん=上郡町船坂
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左手のリハビリを経て切り絵作品を自宅で作る本林俊昭さん=上郡町船坂
小型電気自動車に乗る本林俊昭さん。まひのない左側の手足を使い、運転する=上郡町船坂
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小型電気自動車に乗る本林俊昭さん。まひのない左側の手足を使い、運転する=上郡町船坂

 脳出血で右半身がまひし、失語症になった兵庫県上郡町の本林俊昭さん(67)が、リハビリに始めた切り絵の作品を同県赤穂市坂越の坂越まち並み館で展示している。訓練の末、利き腕ではない左手を使ってナイフを巧みに操れるようになった。言葉が出ないつらさを抱えながら「切り絵は今や日常の一部。没頭するうちに希望を持てるようになった」と振り返る。

 本林さんは赤穂市内の土木関連会社で道路に敷くアスファルトの性能試験を担っていた。異変が起きたのは12年前の夜、自宅でテレビを見ていたときだった。たばこを吸おうと右手でライターを持ったが、力が入らない。助けを求め、家族に携帯電話をかけた際、声が出なくなった自分に気付いた。救急車で赤穂中央病院(同市惣門町)に運ばれ、緊急手術。後に家族から「『意識が戻らないかも』と医師に言われ、延命処置を考えた」と聞いた。

 約25年間勤めた会社を退職。家族とも疎遠になり、10年前から1人で暮らす。デイサービスや訪問リハビリを利用し、自立生活を送っているため、身体障害者手帳の等級は2番目に重いが、介護保険の認定は要介護に至らない「要支援2」にとどまる。

 「言葉が出ず、当初は左手で字も書けなかった。思ったことを伝えられず、2、3年は地獄のような日々だった」と話す。少しずつ字を書けるようになり、気持ちにゆとりが生まれた。今では、タブレット端末の画面にペンで短文を書いては消すやりとりを通じ、意思を伝える。神戸新聞の取材にも筆談で応じた。

 切り絵に興味を持ったのはテレビ番組を見たのがきっかけ。細かい作業が必要で「リハビリに良いのでは」と約3年前に始めた。気に入った切り絵の図案をウェブ上で選び、黒色の紙に下絵を固定。不要な部分をナイフで切り抜く。複雑な切り絵も作れるほど上達し、「肩は凝るが、繊細な線で表現する方が好き。おかげで気が長くなった」と笑う。

 今は毎日2、3時間を切り絵に充て、A3判の作品を1~3週間で完成させる。白黒作品に飽き足らず、24色の筆ペンで色を塗るようにもなった。

 失語症の機能回復訓練はリハビリテーション西播磨病院(同県たつの市)で受けた。赤穂中央病院には2カ月に1度の通院を続ける。「半身まひでも、自分と同じように話せない人に会ったことはない。1人暮らしにも慣れたが、やはりつらい」と本音を漏らす。一方で、なぜ、ここまで頑張れたのか、とふと考える。「家族がいたらきっと甘えてしまう。人に頼らず、1人で生きてきたから今の自分がいる。後ろ向きなことばかり考えず、前向きになれたのかな」

 子どもの頃からボーイスカウトに参加するなど活動的だった。バイクや車など乗り物も好む。昨年11月にはバッテリー充電式の1人乗り電気自動車を購入し、アクセルを左足で踏めるよう改造。自宅から約3キロ離れたショッピングセンターへ車で買い物に行けるようになった。いつかはキャンピングカーで寝起きし、好きな所に行くのが夢だ。

 切り絵の作品展は昨年9月以降、3回目。「同じ病気の人から『作品を見て元気が出た』と言われると、励みになる。2、3年後には、自分で絵を描いた切り絵作品を完成させて展示したい」と前向きに話す。

 今展にはマストから無数のロープを張り巡らせた帆船の日本丸や、色とりどりの花園を舞う美しいチョウなど約40点が並ぶ。2月28日まで。午前10時~午後4時。火曜休館。坂越まち並み館TEL0791・48・7770

(坂本 勝)

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