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空中にぶら下がる樹木の根。土の中の姿のままで観察できる=森林林業技術センター
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空中にぶら下がる樹木の根。土の中の姿のままで観察できる=森林林業技術センター
模型を用いた実験で樹木の防災・減災力などを調べる山瀬敬太郎さん=森林林業技術センター
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模型を用いた実験で樹木の防災・減災力などを調べる山瀬敬太郎さん=森林林業技術センター
特許を得た技術「但馬 テイポス」を開発した永井智さん=森林林業技術センター
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特許を得た技術「但馬 テイポス」を開発した永井智さん=森林林業技術センター
電子望遠鏡で樹木の組織を調べ、多彩な研究につなげる=森林林業技術センター
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電子望遠鏡で樹木の組織を調べ、多彩な研究につなげる=森林林業技術センター

 豊かな森づくりや県産木材の利用促進を図る兵庫県の「森林林業技術センター」(宍粟市山崎町五十波(いかば))。1934年に県林業試験場として設立され、林業生産に関する研究を担ってきた。主な研究部門として、森林資源の育成・保全を目指す「森林活用部」、県内森林資源の有効活用技術を開発する「木材活用部」がある。両部門の責任者に、研究テーマや県内の森林に関する課題などを聞いた。(村上晃宏)

■森林活用部 循環型の林業、整備手法提案 

 空中にぶら下がる大きな広葉樹の根っこ。四方八方に伸びる根を土の中の姿そのままに観察できる。「根の太さや形状が、どう防災や減災につながるかを研究しています」。同センター主席研究員の山瀬敬太郎さん(57)が解説する。

 渓流沿いの樹木が流木や土砂をせき止める機能に着目。水路の模型を用いた実験を実施し、湾曲部分や緩い傾斜地など場所ごとに樹木が果たす役割を調べた。根の太さと引き抜きに対する抵抗力の関係を研究し、土砂崩れなどの防止力を樹種ごとに調査。バランスを考えて植樹することで、森林環境を守りながら防災・減災力の向上を目指す。

     ◇

再造林のコスト縮減

 もう一つ大きな研究テーマは、スギやヒノキを再造林する際のコスト縮減だ。戦後に植林されたスギやヒノキが伐採可能なぐらいに成長してきたが、再び植樹する経費が伐採収入でまかなえない場合もある。そこで短時間での植栽が可能で、植林密度も下げられる「コンテナ苗」を活用し、労働力や経費削減を図る。

 ほかにも、朝来市の緑化センターでは花粉の少ないスギの品種選抜に取り組む。現在は第2世代を育てている段階で、成長速度や材木の強度、小花粉といった特長がそろった「エリートツリー」の研究を進める。

     ◇

 近年、県内全域で被害が確認されている「ナラ枯れ」にも着目する。原因は体長5ミリほどのカシノナガキクイムシが、病原菌を持って樹木に寄生すること。「山の樹木が大きくなりすぎて、住居とする虫にとって好ましい環境になったことが被害拡大の要因」と、山瀬さんは話す。

 同センターでは虫が樹木に寄生する際の手掛かりとするにおい成分を特定し、捕獲するためのおとりに活用する方法を研究。飛翔(ひしょう)能力を調査し、1日最大25キロほどを移動する可能性があることも突き止め、被害予測に生かしている。

 豊かな森林空間の創出を目指す森林活用部。山瀬さんは「循環型の林業を考える時期。それぞれの場所に応じた整備手法を提案し、持続可能な森林づくりを支援したい」と意気込む。

■木材活用部 国産、県産の地消地消を促進

 特徴的な切り口の木材。片方は「U字」、もう一方は「V字」になっている。木造軸組み工法で住宅を建てる際、梁(はり)と桁に使う木材の接合部の形状(仕口(しぐち))だ。従来のU字よりV字の方が木材強度の特徴を合理的に活用でき、耐久力が飛躍的に上がる。

 「スギ材は接合部の強度が弱いイメージがあり、梁と桁の9割は外国産。でもV字の仕口だと梁や桁にスギを使いやすくなり、国産を普及できる」。同センター木材活用部課長の永井智さん(52)は胸を張る。

 V字の仕口は、同センターが2018年に特許を得た技術「Tajima TAPOS(但馬 テイポス)」。但馬木造住宅振興協議会から「県産スギを梁や桁に活用したい」と依頼を受けて取り組んだ成果で、開発者が永井さんだ。

 実験ではU字より耐久力が約3倍上がり、外国産木材よりも高強度であることが証明された。現在、県内外のプレカット工場や機械メーカーの計8社が「但馬 テイポス」の技術を使う。この技術を用いた工事が神河町営住宅にも施された。

 「新たな技術開発で国産木材のシェアを取り戻したい」と永井さんは話す。

     ◇

フローリング材開発

 ほかにも多彩な研究や開発に取り組んでいる。液体窒素の超低温で凍らせた木材を電子顕微鏡で観察し、構造を把握することで強度や加工性などとの関係について研究する。

 近年は六甲山に生えるコナラなど広葉樹資源にも着目。木材としては乾燥による変形やそりといった欠点があったが、短い板材で乾燥、接着するなどし、スギで合板にしたフローリング材を開発した。県内の公共施設などで利用を進め、六甲の森の「若返り」を図る。

 原木の丸太状態で簡易に強度が分かる方法の開発にも取り組んだ。データを収集して季節ごとに密度の差があることを突き止め、重量や振動数などで強度を判断。仕入れ前に90%の精度で選別でき、製材工場での歩留まり低下の阻止に貢献している。

 永井さんは「国産、県産木材の地産地消を目指し、商品開発を支えるバックアップをしていきたい」と力を込めた。

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