兵庫県相生市内で１月末、池に転落した車に乗っていた４０代男性を救助したとして、相生署が理学療法士の北林豊さん（４２）＝赤穂市＝ら３人に、県の善行賞「のじぎく賞」を伝達した。播磨地域に強い寒波が到来したころの事故で、男性は冷たい池の中で、浸水しかけた車内に閉じ込められたが、無事だった。

　同署によると１月３０日午後０時４５分、男性の車が相生市矢野町小河の県道を走行中、対向車線にはみ出し、道路沿いのガードレールの切れ目から約５メートル下の池に転落したという。

　「車が落ちた？」。目の前で目撃した主婦の三浦敬子さん（７１）＝上郡町＝が車を急停止し、駆け寄った。車は前から池に落ち、バックドア部分以外は沈んでいった。慌てた三浦さんは手を振り、通りかかる車を呼び止めようとした。

　約１分後、仕事帰りだった上郡町社会福祉協議会の原啓子さん（６３）＝同町＝が気付いて停車。三浦さんから事情を聴くと、急いで警察と消防に通報した。ただ現場は山間部で、すぐの救助は見込めない。池の車から運転者が出てくる気配もなく、２人は焦りを募らせた。

　その直後、車を止めて駆け寄ってきたのが北林さんだった。池の前に立つ２人を見て「変わった動物でもいるのかな」と気になったという。池に落ちた車と、「助けてあげて」と叫ぶ原さんの声。状況を理解した北林さんはとっさに上着を脱いで池に飛び込んだ。

　肌を刺すような冷水に胸まで漬かりながら車に近づき、バックドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた。「大丈夫ですか！？」。声をかけると、中から「ガラスを割ってください！」と返答があった。北林さんは足元の石を拾い、全力でドアをたたき割った。車内で顔付近まで水に漬かった男性を助け出すと、池のほとりまで誘導した。

　それから間もなくして消防隊員が到着し、男性は陸に引き上げられた。けがはなかったという。相生署であった伝達式で北林さんは「当時は何も考えていなくて、ただ自然と体が動いた」と振り返った。三浦さんと原さんは「北林さんが来てくれてなかったらどうなっていたか。（男性が）無事で本当に良かった」と話した。