山との出合いで人生が変わった。２０１６年、長野県の上高地を訪れた。母親を亡くして２年後、人生初の一人旅で、将来に思いを巡らせた。小学生の時、富山県黒部市の黒部峡谷に家族旅行した記憶がよみがえった。夏でも雪渓が残る北アルプスの絶景に魅了され、登山に憧れたが、実現せずに時が過ぎていた。「北アルプスにも登れるように頑張ります、と山の神様に約束した」と振り返る。

　小学校時代に登った身近な雄鷹台山（２５３メートル）を、早朝に登り始めた。出会う人と話すうち、高山経験のある安岡千栄子さん（兵庫県赤穂市）と知り合い、各地の山へ２人で行くようになった。

　山岳雑誌やＳＮＳ（交流サイト）を通じ、山仲間がどんどん増えた。出会った人に喜んでほしいと食材や調理器具、燃料一式を背負って登り、山で料理を振る舞う。おもてなしの心を込めた料理は、インスタグラムに投稿。塩漬けの桜をもち米入りのご飯にちらし、鳴門のサクラダイをムニエルにした「桜尽くし御前」など、季節感を大切にして色鮮やかな料理やスイーツを次々と作ってきた。

　以前、雄鷹台山頂のノートに、絶景に癒やされた男子高校生が「いじめに負けず、頑張って生きよう」と書き、自殺を思いとどまっていたと知った。「みんなどうしていいか分からず、悩みを抱えた時、自分を変えたくて山に登るのでは」。自身の体験を重ね合わせる。古里の山から３千メートル級の日本アルプスまで、登山との出合いに感謝を込めて感動を伝え続ける。（坂本　勝）