兵庫県養父市大屋町蔵垣で10日朝、新聞配達中だった神戸新聞広谷大屋専売所長の長島敏行さん(55)がクマ1頭と遭遇した。
長島さんによると、目撃したのは同日午前5時半ごろ。車で購読者宅に新聞を届けた後、次の配達先へ向かおうと転回した際、黒のクマが突然前を横切り、民家のそばをうろついていたという。
長島さんは3~4メートル離れた車内から写真と動画を撮影。動画では、長島さんの方向に近寄ってきたクマが2本足で立ち上がってから、15歩ほど後ずさりする動きを捉えた。その後、配達先の男性が戸外に出る姿が見えたため、長島さんは車を降りて「クマがいます!」と伝えたという。
クマとの距離を確保しながら、2人でしばらく動向を見ていたが、相手は立ち尽くしていた。長島さんが5分ほどして次の配達に向かったが、クマはその場にとどまっていたという。
「立ち上がった時は一瞬びくっとした。小学生ほどの大きさで1メートルはあるように見えた」と振り返り、「これまで10回ほど遭遇したことはあるが、逃げずに怖がる様子を見せなかったクマは初めて」と語った。(丸山桃奈)
■目撃・捕獲は過去5年平均の1・6倍 警戒呼びかけ
兵庫県によると、今年4~8月のツキノワグマ目撃件数は408件、県の許可を得た捕獲数は53頭と、いずれも過去5年の同期比で約1・6倍の水準に達している。県森林動物研究センター(丹波市)は「クマが餌を求めて人里に近づく秋を前に、ハイペースの出没が収まらない状態。人身事故防止へ最大限の注意が必要」と呼びかけている。
養父市によると、同市内の目撃件数は例年の約2倍に上っており、警戒を強めている。同市内で10日朝に撮影された映像を確認した同センターの横山真弓研究部長は「クマは視力が弱く、嗅覚が優れている。この時は車の中に人がいるかどうか分からず、2本足で立ち上がって探索している様子が見て取れる」と指摘する。
胸の毛がはげているように見えることから、授乳中のメスの可能性があるという。「車を降りた状態でばったり出くわせば、襲われていた可能性があった。秋のクマは非常に大胆。朝夕に出歩く場合は大きな音を鳴らすなど、例年以上の警戒をお願いしたい」と訴える。(小林良多)