神戸新聞NEXT
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 全国のビルやマンションなどにあるエレベーター約76万台のうち、戸が開いたまま、人が乗る「かご」が動くのを防ぐ安全装置の設置率が37%にとどまっていることが、国土交通省のまとめで分かった。兵庫県内では34・3%と全国平均よりも低迷。戸が開いた状態で昇降する事故は後を絶たず、身近な存在の隠れた危険に改善が急務となっている。

■設置義務化前の建物、対応遅れ

 東京都港区のマンションで2006年6月、エレベーターの戸が開いたまま急上昇し、高校2年の男子生徒=当時(16)=が死亡した。降りようとして、エレベーター出入り口の上枠と、かごの床の間に挟まれた。制止させるブレーキが正常に作動しなかった。

 これを受けて国は09年、「戸開走行」を防ぐため建築基準法を改正し、自動でブレーキがかかる安全装置の設置を義務化。ただ改正前の建物は対象外で、法的には問題のない「既存不適格」の建物が残っている。

 国交省のまとめ(23年度)によると、定期検査の報告があった約76万台のエレベーターのうち、安全装置を備えているのは約28万台(37%)。都道府県別では、最高の沖縄県でも52・4%で、最低の岐阜県は28・8%だった。同省の担当者は、設置率が年々微増しているとしつつ、「全エレベーターへの設置が望ましく、決して高い数値ではない」とする。

 法改正後も事故は相次いでいる。12年には金沢市のホテルで、18年には神戸市の病院で、20年には大阪府豊中市の病院でそれぞれ戸開走行が起きた。原因は不明だが、今年2月に神戸・三宮の商業ビルであった死亡事故でも戸開走行が起きた可能性があるとみられる。

 なぜ、改善が進まないのか。一般社団法人「日本エレベータ保守協会」(東京)の田中陽一理事(51)は建物の所有者の認識不足を指摘する。

 義務化前に完成した建物では、安全装置の設置は努力目標で、所有者が断るケースが多いという。メーカーや製造年によって異なるが、設置には数百万円の費用がかかる。工事には期間を要し、その間、エレベーターが使えないこともハードルになっている。

 国は設置費用の補助を行っているが、都市圏や人口5万人以上の市▽学校や病院など特定の建物▽延べ面積が千平方メートル以上-などの条件があり、対象外のエレベーターも多い。

 田中理事は「既存不適格は違法ではないが、実際には死亡事故が起きている。問題なく動いていても、いつ事故が起きてもおかしくない。所有者や管理者は早急に対応してほしい」と訴えている。(村上貴浩)

 【エレベーターの安全対策】 2009年の建築基準法改正に伴い、エレベーターの駆動装置や制御機器の故障で、戸が閉じる前にかごが昇降した際、自動的に制止する安全装置の設置が義務付けられた。併せて、地震などの揺れを検知して自動的にかごを停止させ、戸を開く装置も義務化。いずれも改正前のエレベーターは対象外で、法的には問題はないが、安全性の確保の観点からは対応が必要とされる。