漁礁になった神戸市電の車両の一部=9月撮影(宮道成彦さん提供)
漁礁になった神戸市電の車両の一部=9月撮影(宮道成彦さん提供)

 神戸・須磨沖に沈められ、漁礁となった神戸市電の車両を撮影する水中写真家で元市文化スポーツ局長の宮道成彦さん(60)が9月、新たな動画収録に成功し、ケーブルテレビの番組やユーチューブチャンネルで紹介された。明治から昭和まで約60年間にわたって市民の足を支えた車両は今、魚たちの生息環境を守っている。街を走っていた頃を知る人々や鉄道ファンらの人気を集めている。(津谷治英)

 神戸市電は1910(明治43)年に開業した。東灘区から須磨区にいたる複数の路線があり、港町の主要な交通網として、車体は緑が基調のツートンカラーが特徴だった。しかし、私鉄などの新交通網が整備されて71年に廃止される。車両の一部は広島電鉄(広島市)に引き継がれたが、人工漁礁として約60両が須磨海づり公園沖に沈められた。

 宮道さんは84年に神戸市の職員に採用され、交通局にも勤務した。入庁した時は既に市電は廃止されていたが、元運転士らの先輩から魅力を聞いてきた。

 趣味はダイビングで、国内外の海に潜って生き物やサンゴを撮影すること。2021年12月、56歳のときだ。須磨沖に眠る市電の車両を探索しようとプロのダイバーの協力を得て水中撮影に挑み、4両を発見した。

 交流サイト(SNS)で公開すると、市民から好評を博す。かつて車両に使われていた灯火器やつり革などを引き揚げて展示会も開いた。

 「劣化はしていたが、車体の大きさや痕跡ははっきりと分かった。沈められてからの状態を伝えることができた」と振り返る。

 そんな活動にケーブルテレビJCOMが興味を示した。日本の海の環境をテーマにした番組を企画し、和歌山、仙台、福岡など8カ所の海域でダイバーに依頼したり、水中ドローンを使ったりして撮影していた。

 ただ、候補に選んだ神戸・須磨は明石海峡にあって、とりわけ潮の流れが強い。撮影できるカメラマンの選定に難航する中、声を掛けたのが宮道さんだった。推薦したのは、映画のロケを地元に誘致する神戸フィルムオフィス。JCOM映像制作部の桑村紀行さん(56)は「過去の実績から最適な人だと思った。市電が沈んでいる海も珍しく、興味をひかれた」と話す。

 今年8月、宮道さんは海中撮影に挑んだものの、天候に恵まれずに断念。9月に再び潜り、水深25メートル付近で以前に発見した車両に出合った。さらに新たな5両目を見つけることができ、動画撮影にも成功した。

 前回は冬だったが、今回は夏だったこともあり、アコウ、カサゴなど多彩な魚が周りで泳いでいた。車両の先端にはムラサキイソギンチャクが着床していて、花びらを広げているようだった。「まるで『花電車』でした」と、宮道さんは笑顔で解説する。

 JCOMは9月26日午後6時半から放送する「ジモト魚っちんぐ!」でこの動画を紹介し、ユーチューブチャンネルでも見ることができる。宮道さんは「市民自慢の海を全国に伝える機会になった」と喜ぶ。

 神戸の海に潜り始めたのは1995年の阪神・淡路大震災直後だった。震災後の海の変化を観察するのが狙いで、その活動も来年で30年を迎える。「地元の漁師さんの努力で、須磨の海の透明度は回復している。これからもその美しさを伝えていきたい」