保存期間が23年前に切れ、いつ廃棄されてもおかしくなかった民事訴訟の記録が、神戸地裁でひっそりと保管されていた。2022年に発覚した神戸連続児童殺傷事件の記録廃棄を契機に、裁判記録の廃棄が社会問題化する中、一部に保存意識が高い職員がいたことをうかがわせる事例とみられる。(霍見真一郎)
■姫路の原告「後世に活用を」
廃棄を逃れて保管されていたのは、半世紀前の1976年に第1回口頭弁論が開かれた「未熟児網膜症訴訟」。当時、早産で生まれた赤ちゃんが重度の視力障害になる事案が多発し、医療ミスを訴える民事訴訟が各地で相次いだ。
35冊分の背表紙幅が計2メートルを超す膨大な記録は、特別保存「処理中」の棚にあった。神戸地裁が昨年6月に公開した特別保存(永久保存)事件の一覧表に昭和期の事件番号があり、記者が照会した。
未熟児網膜症訴訟では、神戸地裁の一審が請求を棄却、二審も控訴棄却だったが、最高裁が破棄差し戻しを判断。97年、高裁が請求の一部を認容する原告逆転勝訴の判決を言い渡した。
神戸地裁によると、保存期間は判決が確定した98年12月17日に始まった。当時の保存期間は10年だったが、規則改正により5年に短縮。この記録の保存期間満了日は「2003年12月16日」となり、それ以降に廃棄されるはずだった。
今回、地裁は帳簿の確認や過去の担当者への聞き取り調査をしたが、保存されていた理由や経緯は明確には確認できなかったという。
ただ、08年11月に特別保存の要望書が提出されていたことが判明。地裁担当者は「保存の要望が出された以降は『廃棄の対象外』と職員に認識されていたと考えられる」と話した。その後、24年12月、特別保存に認定された。
裁判記録の廃棄を巡っては1991年、最高裁が「特別保存記録の膨大化の防止策」を記した文書を全国に配布。記録廃棄が社会問題となったことを受けて2023年、記録の保存を抑えるよう促していたことを認めて謝罪した。
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裁判記録が残されていたことを知った原告の林幸子さん(77)=姫路市=は「何度も子どもと死ぬことを考えた。医療で人生を狂わされた親子の記録として、後世に活用してほしい」と話した。林さんは長男、亡き夫とともに病院側に損害賠償を求めた。
記録には、当時の医療現場の統計や証言が大量に含まれている。原稿用紙4枚に手書きされた林さんの意見陳述書には、生後4カ月の子の視力回復が「もう手遅れです」と病院から突然言われた際の心境について、「涙がほほをつたい、必死で歯をくいしばった」と記されていた。























