石破茂首相はきのう、国会で就任後初めての所信表明演説を行い、新内閣の基本方針を示した。
自民党派閥裏金事件に言及し、「国民の信頼を取り戻す」と繰り返した。改正政治資金規正法を順守し、政治資金は「限りない透明性をもって国民に公開する」と述べたが具体策は示さなかった。裏金問題の全容解明は新政権の責務である。政治不信が極まる中、本当に改革を断行する覚悟があるか疑わざるを得ない。
看板政策の地方創生については、当初予算ベースで交付金の倍増を目指すと強調した。人口減少や少子高齢化などの課題をデジタルの力も活用して解決するため「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、今後10年間で集中的に取り組む基本構想を策定するとした。地方の期待は大きいが、既存施策の焼き直しに終わらないよう現場の声に十分耳を傾ける必要がある。
防災分野では「石破カラー」がにじんだ。内閣府防災担当の予算と人員を抜本強化し、専任閣僚を置く防災庁の設置へ準備を進めると訴えた。さらに「災害関連死ゼロ」へ避難所の在り方を見直し、平時から官民連携体制の構築を目指すという。ではどんな機能を持たせるのか。他省庁との役割分担など実現への道筋も丁寧に説明してもらいたい。
安全保障を巡り、日米同盟の強化や同志国との連携を強調したが、持論の日米地位協定の改定、北大西洋条約機構(NATO)のアジア版創設には一切言及しなかった。
岸田政権の路線を継承するとした経済政策では「物価上昇を上回る賃上げ」の実現へ、最低賃金を2020年代に全国平均1500円とする目標を改めて掲げた。早急に経済対策を取りまとめ、物価高の影響を特に受ける低所得者世帯への支援などを進める考えも示した。しかし自民党総裁選で触れた金融所得課税の強化に関しては明言を避けるなど「分配」政策の中身は物足りない。
一方、総裁選で争点となった選択的夫婦別姓制度導入への賛否は示さなかった。社会保障制度の持続性確保については「多様な人生の選択肢を実現できる柔軟な制度設計を行う」と抽象的だ。岸田政権が先送りした防衛増税や少子化対策の財源確保、国民負担の在り方への説明がないのも不誠実ではないか。
首相は9日の衆院解散を表明した。選挙を控え痛みを伴う政策を語らない姿勢は、首相が力説する「国民の納得と共感」とは程遠い。
有権者に判断材料を提示するのは政治の責任だ。代表質問や党首討論だけでなく、予算委員会での議論は欠かせない。野党との論戦に正面から向き合わねばならない。