物価高やトランプ米政権の高関税措置を受け政府、自民党が検討中の追加経済対策を巡り、消費税減税の議論が熱を帯びている。主な野党が減税方針で足並みをそろえる一方、石破茂首相は減税すれば財政運営に支障を来すとして、実施を見送る意向を政権幹部に伝えた。
だが与党内にも減税を求める声は根強い。夏の参院選の主要な争点に浮上しそうだ。
しかし消費税はすべての国民の生活に関わる社会保障の安定財源である。減税分をどう穴埋めするのか。国債で賄った場合、次世代にどんな影響が及ぶのか。減税を主張するならプラス面ばかりを強調せず、マイナス面も国民に示すべきだ。
消費税を巡る野党の主張を見ると、共産党とれいわ新選組は以前から撤廃を唱えてきた。今年に入り日本維新の会が食料品の税率を8%から2年間限定でゼロにするよう求めたほか、国民民主党は時限的な一律5%への引き下げを掲げた。
立憲民主党は、野田佳彦代表がかつての民主党政権で首相を務め、社会保障と税の一体改革をまとめた経緯から減税には慎重だったが、1年間限定の食料品税率ゼロに転換した。他党が次々に減税を打ち出す中、党内で台頭する減税派を抑えきれなくなったのだろう。
仮に食料品の消費税率をゼロにすれば国の歳入は約5兆円減る。代替財源について野田代表は「赤字国債に頼らない」と述べるが具体策はこれからだ。国民民主は赤字国債、維新は税収の上振れ分の活用を唱えるが、巨額の債務を抱える財政の現状から目を背けているのではないか。
気がかりなのは複数の報道機関の世論調査で、若年層ほど消費税減税に賛成する傾向が見られる点だ。
物価高は収束の兆しが見えず、実質賃金は下落が続く。トランプ政権の高関税措置で景気の先行きには暗雲が漂う。所得の低い若年層を中心に、減税に期待が高まるのは理解できる。
ただ人口減少のペースが早まり、社会保障改革は待ったなしだ。減税でその財源が減れば、自分たちが年齢を重ねたときに打撃を受けかねない。赤字国債で膨らんだ国の債務は自分たちの負担に跳ね返ってくる。
減税で一時的に所得が増えても、長期的には悪影響が避けられないのではないか。政治はその点を、次代を生きる若い人にこそきちんと伝え、考えてもらわねばならない。
この30年で消費税率は3%から10%に上がったが法人税の基本税率は37・5%から23・2%に下がった。政府、与党は国民の重税感に真摯(しんし)に向き合い、公平な負担の在り方を探るべきだ。