兵庫県の斎藤元彦知事が昨年11月の知事選で再選してから、17日で丸1年となる。斎藤知事は選挙で「三つの約束」の一つとして「文書問題の真相究明と改善策の徹底」を掲げた。だが今年3月、県の対応を「公益通報者保護法違反」と断じた第三者調査委員会の報告書への対応をほごにしたことで、説明責任を問う声が再燃。全国知事会で問題視された「2馬力」選挙の検証も手つかずで、県議会との緊張関係が続いている。
告発文書に記された内容の真偽と県の対応を調べた第三者委は、知事再選から4カ月後の今年3月19日に報告書を公表。記者会見した弁護士の一人は報告の重みをこう指摘した。「知事自身が設置を決めた。結果が不利なら聞かないということはあり得ないと思う」
報告書は、疑惑の当事者である斎藤知事や片山安孝元副知事らが、匿名文書の作成者を調査して元西播磨県民局長(故人)と特定し、聴取した対応が公益通報者保護法に違反すると結論づけた。これに伴い、告発文の作成・配布を理由とした元県民局長の懲戒処分も「違法で無効」と断じた。
ところが、斎藤知事は「一つの意見があれば別の意見もある。われわれの意見と考え方が少し異なってきている」とし、「誹謗中傷性の高い文書であり、県の対応は適切だった」と、第三者委が否定したはずの従来の主張を変えなかった。
■別の第三者委でも「受け流し」
調査報告の「受け流し」は、別の第三者委でも繰り返された。
元県民局長に関する私的情報の外部漏えいを調べた第三者委は、前総務部長の漏えい行為が「斎藤知事らの指示で行われた可能性が高い」とする報告書を5月に公表したが、知事はこれを否定。自身が責めを負うのは「県保有情報の管理責任」に限るとして、知事給与を削減する条例改正案を6月の県議会定例会に出した。
こうした知事の姿勢に、県議会の主要4会派は真相解明を図るため刑事告発を求めたが、斎藤知事は拒否。給与削減案は、県提出議案としては史上初めて採決が見送られた。9月開会の定例会でも採決は先送りされ、今も「継続審議」のままだ。
この情報漏えい問題では、大学教授らが地方公務員法(守秘義務)違反容疑で斎藤知事らを刑事告発し、捜査が続いている。
告発文書関連の第三者委は三つあり、県によると費用の総額は計約4870万円。県議会では、知事が報告書の結論を受け入れないことで「経費が無駄になる」との指摘や、今後の第三者委の形骸化を懸念する質問があった。一方の斎藤知事は「風通しのよい職場づくりに向けた研修を行った」などとする理由で、報告書に意義はあったと主張する。
■2馬力選挙問題、兵庫県が震源に
約111万票を集めて返り咲いた知事選をめぐっても、今なお説明不足が指摘されている。
知事選には、政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首が斎藤知事を当選させる目的で立候補し、「2馬力」選挙を展開した。立花氏は斎藤知事の前後に街頭演説し、知事の疑惑を追及する県議会調査特別委員会(百条委員会)の委員らを批判した。
全国知事会は「放置すれば国民の選挙への信頼を損なう」として今年4月、国に2馬力行為への対策強化を要請した。9月の県議会定例会で代表質問に立った自民党議員が「本県が震源となった」と2馬力選挙への対応を問うと、斎藤知事の答弁は「それぞれの候補者が法令の規定にのっとって適切に対応してきた」として一般論に終始。閉会時に議長が「一部議論が深まらなかった側面があったことは否定できず、議会として決して本意ではないことを申し添える」と、異例の苦言を呈した。
立花氏は、県議会百条委員会の委員を務め、知事選後に辞職した竹内英明元県議(今年1月に死去)に対する名誉毀損容疑で今月9日に兵庫県警に逮捕された。11日の定例会見で受け止めを聞かれた斎藤知事は「捜査中のためコメントを差し控えたい」と繰り返し、立花氏の主張や選挙運動にも徹底して言及を避けた。
昨年7月末以降、服部洋平氏1人体制の副知事について斎藤知事は再選後に「2人体制に戻す」と明言していたが、空席は埋まっていない。
岡田章宏神戸大名誉教授「知事の責任、議会こそ追及を」
自治体職員や議員、研究者でつくる「兵庫県自治体問題研究所」で理事長を務める岡田章宏・神戸大名誉教授(地方自治論)に、行政の長と第三者委員会の関係のあり方を聞いた。要旨は次の通り。
第三者委員会はもともと2000年代初めに企業がコンプライアンス(法令順守)を確保するツールとして出てきて、地方自治体も取り入れるようになった。自治体の場合、設置が条例によるか要綱によるかで位置付けは異なるが、第三者委の結論を全て受け入れないといけないかといえば、法律的には縛りはない。
兵庫県の場合、外部への県保有情報の漏えい問題で前総務部長を懲戒処分とし、容疑者不詳の刑事告発をするなど、何らかの対応をしたという県の理屈は一応成立する。
しかし、第三者委を設置した首長の説明責任は当然ある。斎藤知事が首長に求められる水準の説明を果たしているかといえば、全くできておらず、資質すら問われる。
二元代表制の一方の首長が自ら責任を負わないのなら、もう一方の県議会が負わせないといけない。民主主義のあり方として、不可解な部分や矛盾点を追及できないのであれば、議会にも問題があると言わざるを得ない。
【告発文書問題】兵庫県西播磨県民局長だった男性が2024年3月、斎藤元彦知事のパワハラ疑惑など7項目を告発する文書を作り関係者に送付。県の公益通報窓口にも通報したが、県は通報者への不利益な扱いを禁じる公益通報者保護法の対象外と判断。内部調査で誹謗(ひぼう)中傷と認定し停職3カ月の懲戒処分とした。調査の中立性を疑う声が相次ぎ、斎藤知事は第三者委員会を設置。男性は24年7月に死亡した。斎藤知事は9月、県議会の不信任決議を受け失職し、11月の知事選で再選された。県議会百条委員会委員への中傷も横行し、議員辞職した元県議が今年1月に死亡した。告発文書の内容を調査した第三者委は25年3月、斎藤知事のパワハラを認定し、県の対応を「公益通報者保護法違反」とする報告書を公表。前総務部長による元県民局長の私的情報漏えいを調べた第三者委は同年5月、漏えい行為が「知事と元副知事の指示のもとに行われた可能性が高い」とする報告書を公表した。
























