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 関税を巡る日米間の混乱は、収束に向かうのか、楽観できない状況だ。日本政府は、米国が合意内容を着実に履行するよう強く働きかけねばならない。

 米国は7日、各国・地域への新たな「相互関税」を発動した。「相互」と名が付くが、トランプ米政権が国際ルールを無視して一方的に税率を設定し、運用するという理不尽極まりない政策である。

 経緯を振り返ると、米国は4月に日本を含む貿易相手国に一律10%の相互関税を課した。その後、対日関税を25%に引き上げると表明し、日米の交渉を経て税率を15%とすることで7月に合意した。

 日本政府は、負担軽減の特例措置が適用されると国民に説明していた。具体的には、既存の関税が15%未満の品目は一律15%となり、15%以上の場合は上乗せしない、という内容だ。しかし、ふたを開ければ特例措置の対象にはならず、既存の税率に関係なく15%が上乗せされた。

 国家間の取り決めにもかかわらず、これほど中身が食い違うのは理解し難い。日本経済への影響はあまりに大きい。共同文書を作成しないままの「口約束」の懸念が、早くも現実となった。

 慌てた政府は先週、合意内容を確認するため赤沢亮正経済再生担当相を米国に派遣した。赤沢氏の記者団への説明によると、日米間の齟齬(そご)は「米国の事務処理」が原因で、米側は大統領令を修正して日本が求める特例措置を実施する意向を示したという。ただ、今回も文書で確約しておらず、大統領令がいつ修正されるかは不透明だ。

 懸案となっている自動車関税の引き下げも実現に至っていない。日米合意では、日本車への関税は追加分25%を半減させて全体で15%とすることとなったが、現在は27・5%が課せられている。

 赤沢氏は先週の訪米で、米国が相互関税に関する大統領令の修正と同時期に自動車関税を引き下げることを確認したとしている。だが、実施時期は見通せず、自動車各社のダメージはさらに大きくなりそうだ。

 米政権の一連の対応は、身勝手でずさんとしか言いようがない。一方、日本の交渉のあり方にも不安が残る。石破茂首相のリーダーシップが見えないのも一因だろう。合意が米国に都合の良い「空手形」にならないよう、文書化が望まれる。

 日本にとって、自由貿易の旗を掲げる国々との関係強化が一層重要になる。国際的な連携の下、不公正な高関税政策そのものの見直しを米国に求め続けるべきだ。同時に、将来を見据えて米国市場に過度に依存しない産業政策を描く必要がある。