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 三菱商事が中部電力の子会社などと企業連合を組み、秋田、千葉両県沖の三つの海域で進めてきた洋上風力発電所の建設計画から撤退すると発表した。2021年の入札時の見込みと比べて建設費用が2倍以上に膨らみ、採算が合わなくなったのが理由だという。中西勝也社長は「地元の期待を裏切る結果になって大変申し訳ない」などと語った。

 この計画は再生可能エネルギーを推進する大型プロジェクトであり、事業の停滞による脱炭素政策への影響は必至だ。武藤容治経済産業相は「洋上風力に対する社会の信頼を揺るがしかねない」と苦言を呈し、地域振興を期待した地元からも落胆の声が相次ぐ。三菱商事は社会的責任を自覚してもらいたい。

 計画では、秋田県能代市、三種(みたね)町および男鹿市沖▽秋田県由利本荘市沖▽千葉県銚子市沖-の3海域で28~30年に運転を始める見込みだった。3海域の事業は国内初の大規模洋上風力として公募された。企業連合は1キロワット時当たり約12円など、他の事業者よりも大幅に安価な売電価格を提示し、全てを落札した。経産省は22年に事業計画を認定した。

 ところが3年もたたないうちに、この低価格が一因となって撤退する事態となった。中西氏は外部環境が激変したと弁明するが、コストを低く見積もり過ぎていたのではないかとの批判は避けられまい。

 ただ、資材高による建設コストなどの増加が、洋上風力全体を揺るがしかねない問題であるのは間違いない。今回の計画では入札時に固定価格買い取り制度(FIT)が適用され、売電価格を20年間維持する予定だった。これでは資材価格や人件費が高騰したときの対応が難しい。

 そのため政府は、価格上昇分の一部を販売価格に転嫁できる仕組みなどを打ち出していた。今後、建設計画を進める事業者の再公募を行う方針だが、この仕組みなどを含めて制度全体を見直し、同じ轍(てつ)を踏まないようにしなければならない。

 地球温暖化の問題は深刻化している。国際枠組み「パリ協定」で定めた気温上昇を1・5度以下に抑える目標に向け、政府は50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を掲げる。エネルギー基本計画では、23年度に発電量全体の22・9%だった再エネを40年度に4~5割程度に引き上げるとした。

 安定的な発電ができるなどの利点が多く、洋上風力は再エネの「切り札」と位置付けられていた。一方で海鳥や水生生物への影響など未解明な点もある。脱炭素の推進は国際社会に対する日本の責任でもある。課題を解決しつつ、官民が協力して風力発電推進の継続を図りたい。