児童たちの声も参考に完成させた改良版の「ライフボックス」を手渡す細川晋さん(後列左から2人目)=三重県鳥羽市堅神町、鳥羽小学校
児童たちの声も参考に完成させた改良版の「ライフボックス」を手渡す細川晋さん(後列左から2人目)=三重県鳥羽市堅神町、鳥羽小学校

 南海トラフ巨大地震や異常気象による水害など、いつどこで災害に巻き込まれるか分からない時代。命を守る備えが常に身近にあるように、兵庫県丹波市でかばんメーカー「マルスバッグ」を営む細川晋さん(65)が、日々携えられる防災グッズを開発した。簡単な手順で救命胴衣に変形するリュック「LIFE BOX(ライフボックス)」。通学通勤で毎日持つバッグに着目し、津波被害が想定される地域の子どもらの意見も取り入れて製作した。(秋山亮太)

 細川さんはかばんの町、豊岡市で長年かばん製造会社に勤めた。2013年から個人でかばんを作り始め、ドクターヘリやドクターカーの医師らが使うバッグを手がけるように。17年にマルスバッグを起業した。

 「かばんの力で人を助けたい」。思いの原点は04年の台風23号災害にある。同市では円山川が決壊。浸水した地域や濁流を目の当たりにし、水害の恐ろしさが刻まれた。11年の東日本大震災、昨年の能登半島地震と津波被害を見るたび思いは強まった。

 「浮かぶかばんが作れたら、万一のときに役立つかもしれない」。抱えて浮かぶ製品はあったが、手が離れたり、腕が抜けたりするケースを考えた。手足を自由に動かせれば何かにつかまることもできる。「助かる可能性を少しでも高められるよう、救命胴衣型を考案した」という。

 開発したのは通学通勤でよく使われるスクエア型のリュック。洗いやすいポリエステル製で3サイズを設計した。普段は通常のリュックと同様に使用。側面から底にかけてファスナーが付いており、開けることで収容量が増加する。

 津波や水害の危機が迫ったときには、上ぶたなどを開き、内側の蛍光オレンジの生地が表になるようひっくり返す。肩ベルトのかけ方を変え、胸と股のベルトを留めると救命胴衣に。数回練習すれば、子どもでも1分程度で変形できる。

 1年掛けて原型を製作。防災教育の支援などを手がける神戸市のNPO法人「シーズ・アジア」の紹介で、津波被害が想定される三重県鳥羽市の鳥羽小学校を訪問。バッグの機能や製品に込めた思いを伝えた。後日、児童たちは実際にプールで浮かぶ体験もし、着用感などを参考にサイズや浮力体の厚みを再調整。「変形する余裕がない場合の取っ手がほしい」との助言も得て実際に取り入れた。

 今月14日には、改良版5点を同校に寄贈した。同校は海まで600メートル余りの場所にあり、校区内には津波による浸水被害が想定される地域もある。バッグを受け取った4年生(9)は、離島から船で学校に通う。今年7月、津波が鳥羽市内に到達したこともあり、「また来るかもという怖さがいつも頭の片隅にある。バッグを備えとして持ちたい」。別の児童は「津波はいつ起きるか分からない。みんなが背負えるよう広まればいいな」と話していた。

 細川さんは「バッグが不安を少しでも和らげられる存在となればありがたい。体験できる機会を積極的に提供したい」と話している。問い合わせは細川さんTEL090・2595・3882