暮らしを支える重要な社会インフラである水道の老朽化への対応が進んでいない。補修や交換などを急ぐには、対応する自治体への予算や人員の一層の支援が欠かせない。
埼玉県八潮市で1月に起きた下水道管の腐食が原因とみられる陥没事故を受け、古くて大きな下水道管を全国の自治体が調べた結果、41都道府県の計297キロで道路陥没につながる腐食や損傷が見つかった。8月8日時点で調査を終えた621キロの半数に迫る長さである。
調査を要請した国土交通省は、深刻度に応じ対策の緊急性を2段階で判定した。297キロのうち原則1年以内の対応が必要となる「緊急度1」は72キロ、兵庫を含む35都道府県で確認された。「緊急度2」は応急措置の上で5年以内の対策が必要で、225キロが該当した。危険性を重く受け止めなければならない。
重点調査の対象は、下水道管の総延長約50万キロ(2023年度末時点)のうち、直径が2メートル以上で設置から30年以上が経過した約5千キロだ。調査結果が出たのは621キロにとどまり、今後の調査で危険な下水道管が増える可能性は高い。
さらに約50万キロの下水道管のうち標準耐用年数の50年を経過した管は7%あるが、10年後には20%、20年後には42%と急増する見込みだ。
維持や改修の費用は原則として下水道事業を運営する自治体が住民から受け取る料金で賄う。国は下水道管の交換を財政支援しているが、膨大な数に追いついていない。自治体も人口減に伴い、料金収入が減少している。不足を補うために使用料を引き上げる自治体も出ている。
危険な作業を担う人員の確保や技術面でも課題は多い。カメラを搭載し、人が立ち入れない管の内部でも自走して撮影できる小型機器や、内部の映像を基に人工知能(AI)で劣化を判定する技術開発も進んでいる。積極的な活用へ、予算も人も優先的に投入する必要がある。
上水道も老朽化のリスクに直面している。国交省によると、22年度末時点で水道管の24%が法定耐用年数の40年を超え、同年度は破損や漏水が約2万件に上った。水道事業を運営する自治体の多くが修繕や更新の財源確保に苦慮している。
災害対応も待ったなしだ。昨年の能登半島地震では老朽化した水道管が広範囲で損傷し、断水が長期化する要因となった。耐震化や人員確保に必要な予算は使用者から徴収する料金収入が元手だ。人口減が進む地域は苦境に追い込まれかねない。
各地の水道管は高度成長期以降に整備が進み、今後、集中更新期を迎える。国の責任で財政や技術面での抜本的な対策を急ぐべきだ。