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 今年のノーベル化学賞の受賞者に、北川進京都大特別教授(74)ら3人が選ばれた。日本のノーベル賞受賞は個人では30人目で、化学賞は2019年の吉野彰旭化成名誉フェロー(77)以来9人目となる。

 北川さんの受賞理由は「金属有機構造体の開発」だ。金属イオンと有機化合物が結合し、小さなジャングルジムのような構造を持つ新材料「多孔性金属錯体」を作り出した。極めて小さい多数の穴を持ち、穴の大きさを分子レベルで変えられるため、特別なエネルギーを使わなくても狙った大きさの気体の分子を吸着させることができる。

 窒素酸化物などの有害物質や、地球温暖化をもたらす二酸化炭素を分離する。次世代エネルギーと注目される水素やメタンを室温で大量に蓄える。そんなことも可能にすると期待される「気体の錬金術」である。

 世界的な課題である資源や環境問題などの解決にも結びつく画期的な内容だけに、満を持してのノーベル賞と言える。

 京都市出身の北川さんは、もともと金属と有機物から成る「金属錯体」の研究を手がけていた。多くの研究者の関心は錯体の骨組みや形状だったが、北川さんが注目したのは骨組みの隙間だった。

 役に立たない場所ではなく、活用する方法があるのでは-。研究人生で北川さんが常に頭に置いていた言葉である、荘子の「無用之用」に基づく考え方だ。学問の分野を問わず、素養の深さが優れた研究につながると痛感させられる。

 1995年に初めて多孔性金属錯体の合成に成功し、97年にはドイツの科学誌に論文を発表した。しかしデータの信頼性を疑われるなど学会の反応は冷淡で、うそつき呼ばわりもされたという。それでも研究に没頭し、金属と有機物の組み合わせを拡大するなどして世界的な評価を着実に高めていった。

 兵庫県佐用町の大型放射光施設「スプリング8」は、北川さんの研究を支えた拠点の一つだ。多孔性金属錯体で原子と分子がどのように並んでいるかを解析するのに活用した。

 ミクロの世界の物質や反応も照らし出し「魔法の光」と呼ばれる大型放射光の本領が発揮され、世界的な研究につながった。兵庫にとっても栄誉なこととして喜びたい。

 6日には坂口志文(しもん)大阪大特任教授(74)がノーベル生理学・医学賞に選ばれており、日本の研究者が基礎分野で輝きを放つ。

 基礎分野は短期的な効果が表れにくいが、科学技術や現代社会に大きな影響を及ぼす。今後も世界に誇れる受賞が続くよう、研究の充実に公的支援を十分に行う必要がある。