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 米国とロシア間に残る最後の核軍縮合意「新戦略兵器削減条約(新START)」が期限切れにより失効した。両国は核戦争寸前まで緊張が高まったキューバ危機の反省から1972年以降、複数の核軍縮条約を結んできたが、今回の失効で核に関する合意がない異常事態に陥った。

 条約の枠組みは当面、順守されるとみられるが、世界の核兵器の約9割を保有する両国間の緊張が高まれば、核開発競争が際限なく過熱する恐れがある。

 ウクライナ侵攻を継続するロシアのプーチン大統領は核の脅しを繰り返し、「力による平和」を掲げるトランプ米大統領は核実験の再開を明言する。両氏とも核戦力の優位性を主張してやまない。国際情勢が切迫する中、不測の事態を回避するためにも合意の枠組みは不可欠だ。両氏は速やかに歩み寄り、後継条約の締結を急がなければならない。

 新STARTは2011年に発効し、21年に5年間延長された。戦略核弾頭の配備を1550発までとするなど数の制限に加え、違反行為を互いに監視し合う機能もあった。ウクライナ侵攻後の23年にロシアが履行停止を表明していた。

 核兵器を規制するには保有状況の可視化が欠かせない。後継条約では相互査察の取り決めも復活させてもらいたい。

 新STARTの失効を前にした交渉で、ロシアは1年間の継続を持ちかけたとされる。しかし、米国は核戦力の増強を続ける中国の参加を主張し応じなかったという。

 核軍縮の実効性を保つには他の保有国を引き込む必要があるが、中国は参加を否定しており、早期合意は見通せない。まずは米ロで削減目標を取り決め、その上で中国に加え、ロシアが参加を求める英国、フランスを誘うのが現実的だ。

 新STARTに代わる歯止めがない状態が続けば、米ロへの不信が高まり、核拡散防止条約(NPT)の体制にも深刻な影響を及ぼしかねない。核保有国は増産を加速させ、非保有国も新たに開発を目指す恐れがある。国際社会は核を巡る秩序回復を急がなければならない。

 日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の田中熙巳(てるみ)会長は新START失効について「被爆者の訴えが人類の問題になっていない」と憤る。高市早苗首相は被爆者らの声を国際社会に届ける責務がある。

 米国の「核の傘」に頼る日本は、核兵器の開発や保有、使用を禁じる「核兵器禁止条約」を批准していない。高市首相は唯一の戦争被爆国の役割を胸に刻み、「核なき世界」に向け条約批准に動くとともに米ロに核軍縮を強く働きかけるべきだ。