「核なき世界」が、さらに遠のこうとしている。
世界で核兵器使用の脅威が高まる中、フランスのマクロン大統領は保有する核弾頭数を増やす方針を示した。自国の「核の傘」を欧州に広げるため英国やドイツ、ポーランドなど8カ国と連携し、合同演習を実施する計画にも言及した。
ロシアがウクライナ侵攻に際して核使用をちらつかせ、トランプ米政権が欧州軽視に傾く中、独自の核抑止力を強化する狙いがある。
世界の核管理体制を巡っては、米ロ間に残った最後の核軍縮合意、新戦略兵器削減条約(新START)が2月に失効したばかりだ。フランスは冷戦後、核軍縮に力を注いできただけに、今回の戦略転換が軍拡競争の号砲となるのを懸念する。
国際社会は団結し、核増強の流れを断ち切るよう、保有国に強く迫るべきだ。
マクロン氏は「われわれは地政学的にリスクに満ちた激変期を迎えている」と述べ、核抑止力の増強が重要と訴えた。核保有自体が偶発的な核戦争を誘発し、破滅的な事態を招く危険性がある。その点に背を向けていると言わざるを得ない。
約200カ国が加盟する核拡散防止条約(NPT)は、フランスを含む5カ国を核保有国と定め「誠実に核軍縮交渉を行う義務」を課す。しかし2022年の再検討会議ではロシアの反対で最終文書が採択できなかった。弱体化しているのは明白だ。ロシア、米国、中国に次ぐ数の核弾頭を保有するフランスの核増強は、NPT体制を有名無実にする恐れがある。
懸念するのは、NPTが定める核保有国だけにとどまらず、「自衛」を名目に核戦力の強化を急ぐ動きが世界中に広がりかねない点だ。北朝鮮は核兵器の増産を誇示し、イランも核兵器開発を目指しているとして米国の攻撃を受けた。
核使用のリスクが世界各地に点在し制御不可能になる状況を招かないためにも、自ら核を減らしNPT体制を再構築するのが、フランスなど核保有国の責務である。
マクロン氏は23年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)の際に、広島を訪れた。原爆資料館を視察して、被爆者の声も聞いている。核兵器の恐ろしさを十分に理解しているはずだ。
日仏両政府は今月末にマクロン氏の来日と、高市早苗首相との首脳会談を調整中という。安全保障や経済安保分野の連携がテーマになる。
フランスが再び核軍縮のリーダー役を務めるよう、首相は被爆国のトップとしてマクロン氏に強く働きかけなければならない。
























