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 今年のミラノ・コルティナ冬季五輪で銀メダルを手にし、世界選手権では優勝を果たしたフィギュアスケート女子の坂本花織選手=神戸市出身=が、同市内で現役引退の記者会見を開いた。昨年6月に今季限りでの引退を表明していた坂本選手は、21年間の競技生活について「ひと言では表せないぐらい、いろんな景色を見てきた。やり切ったという気持ちが一番ある」と語った。

 五輪では日本女子初の3大会出場と最多4個のメダル獲得、世界選手権でも浅田真央さんを上回る日本勢最多の4度制覇など、国内外で素晴らしい成績を残してきた。まさに地元が誇る世界的な名選手だった。

 会見では今月、同い年の男性と結婚したことも、晴れやかな笑顔で報告した。今後は神戸を拠点に指導者を目指すという。数々の美しい演技を見せてくれたことに感謝するとともに、新たな門出を祝福したい。

 26歳の坂本選手のスケート人生は4歳から始まる。地元の小中学校から神戸野田高、神戸学院大に進み、ポートアイランドのリンクなどで厳しい練習を重ねた。会見では現役時代を「青春」と表現し「かけがえのない時間。頑張っていく過程はそのときにしかできないこと」と振り返った。競技に全てを費やしてきたアスリートならではの言葉である。

 五輪初出場は2018年の平昌(ピョンチャン)大会で、22年北京大会で個人銅、団体銀の成果を上げた。今年2月のミラノ・コルティナ大会は集大成として臨んだ。団体銀を決めた後の個人では、連続3回転ジャンプで痛恨のミスがあり、わずかに金に届かなかった。「3大会、攻めきれずに終わった」と悔いをにじませた。

 だが圧巻だったのは、その1カ月後にプラハであった世界選手権だ。伸びやかで、疾走感あふれる演技を完璧にこなした。シャンソン「愛の讃歌」で滑るフリー、合計ともに自己ベストを更新し、今季世界最高得点となった。「最後に金メダルを取って、晴れやかな気持ちで競技から退ける。すごく幸せ」と話した。

 出場は五輪の後に決めたという。わずかな期間で心身を立て直し、演技の完成度を高められるところが一流選手の証しだろう。

 指導者として目標にするのは恩師の中野園子コーチだ。「技術だけではなく、人間性の部分も後輩たちに伝えたい」と意気込む。中野コーチは2月の五輪で銀メダルだった坂本選手に「あなたが金メダリストを育てなさい」と語りかけたという。

 喜びも苦しさも経験した競技人生は、後進の育成にも役立つに違いない。恩師の下で教える側としての研さんを積み、世界で輝く若手を神戸からどんどん送り出してほしい。