高市早苗首相が強い意欲を示す労働規制の緩和を巡り、自民党や政府が議論を進めている。残業をしやすくすれば企業の人手不足感が和らぎ、ひいては経済成長につながると首相は考えているようだ。
しかし、過労死や精神障害などの労災認定件数はここ数年増え続け、2024年度は過去最多となった。政府が優先すべきは長時間労働の是正である。逆行するような規制緩和は認められない。
自民党の日本成長戦略本部は今年4月、労働市場改革に関する提言を首相に提出した。企業に対して時間外労働(残業)を月45時間以内に削減するよう一律に求めている労働基準監督署の指導を見直すことなどを盛り込んだ。
労働基準法は労働時間を1日8時間、週40時間と定める。ただ、同法36条に基づき労使が「三六(サブロク)協定」を結べば、月45時間、年360時間まで残業が可能になる。さらに繁忙期などの事情で特別条項を結ぶと、上限が月100時間未満に緩和される。この場合、「過労死ライン」とされる月80時間を大幅に上回る。
日本成長戦略本部は「もっと働きたい」という人が正当に報われる必要があるとし、中小企業が三六協定や特別条項を締結できるよう労基署が支援することを求めている。現行の時間規制内で残業させやすくするのが狙いである。
より長時間働きたい人に対応すると言うが、実態とかけ離れていると言わざるを得ない。
厚生労働省が3月に公表した労働者3千人の調査によると、労働時間を「増やしたい」との回答は11%にとどまり、「このままで良い」が60%、「減らしたい」は30%だった。増やしたいという回答者は現在の労働時間が少ない傾向があった。
多くの労働者が望むのは、規定の労働時間の範囲でやりがいを持って働き、私生活とのバランスを取ることではないか。長時間労働が常態化した会社に人材は定着しない。
労使の代表による労働政策審議会の分科会では、高市首相が2月の施政方針演説で言及した裁量労働制の見直しが議題に上がっている。
労使が決めた「みなし労働時間」に基づき賃金を支払う裁量労働制は、研究開発や経営企画など専門性の高い業務に適用が限定されているが、経済界は対象の拡大を求めている。一方、労働界は長時間労働の温床と批判し、拡大に反対する。
今後、人手不足はさらに深刻化するだろう。政府は働き方の実態やニーズの把握に努め、生産性向上と併せて、働く人の健康と安心を守る施策を進める必要がある。























