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 時間外労働(残業)を削減するために企業に対して行ってきた指導の在り方を、政府は9月から大きく変更した。高市早苗首相が進めようとしている労働規制緩和の一環だ。長時間労働を助長しないか、注視する必要がある。

 厚生労働省の出先機関、労働基準監督署は、労使合意で月45時間超の残業が可能な企業についても、45時間以内に抑えるよう一律に求めていた。これをやめて、企業が労働者の健康を守るための措置をとっているかどうかを重点的に確認する。厚労省は措置の具体例として、医師による面接指導や深夜業務の回数制限などを挙げている。

 2018年に成立した働き方改革関連法は、過労死を招いた長時間労働への反省から、残業時間に罰則付きの上限規制を設けた。法定の労働時間は原則1日8時間、週40時間だが、労使が「三六(サブロク)協定」を結べば、残業の上限を月45時間、年360時間まで延ばせる。さらに繁忙期などの事情で特別条項を付けると、月100時間未満に緩和される。ただし、この特別条項はあくまで例外という位置付けだ。

 残業が月45時間を超えて長くなるほど、脳や心臓の疾患が発症する恐れが高まるとされる。過重労働などによる健康障害で労災請求に至るケースは増えており、労基署が残業抑制に強い姿勢で取り組んできたのは当然と言える。このたびの指導の見直しは、働き方改革に明白に逆行している。

 見過ごせない変更点はほかにもある。厚労省は、中小企業が三六協定や特別条項を締結するための支援に乗り出した。兵庫県内では「兵庫働き方改革推進支援センター」(神戸市中央区)に特別相談窓口が設けられた。残業させやすい環境整備を進めているかのように映る。連合などの労働組合や過労死遺族らが反発するのも無理はない。

 人手不足に悩む中小企業などからは「労働時間を増やしたい」「残業の一律指導は事業活動を萎縮させる」といった声が出ていた。今年7月に閣議決定された「骨太方針」と日本成長戦略には、経済界の意向を反映して労基署の指導見直しが盛り込まれた。

 今後、労働人口はさらに減少していく。規模の小さい事業所ほど影響は大きいだろう。しかし、残業頼みの経営では労働者は疲弊し、人材は定着しない。政府は中小企業の生産性や競争力を高める支援策にこそ力を入れるべきだ。

 働き手が安心できる労働環境の整備を抜きに、経済の持続的な成長は望めまい。長時間労働を是正する取り組みを後退させてはならない。