佐伯一麦さん
佐伯一麦さん

 アスベスト禍は、それを扱う工場の工員や周辺の住民、建設労働者、港湾関係者だけに関わる問題だと考えてはいないだろうか。例えば、私の住む東北では、農家の人が、アスベストが原因とされる中皮腫を発症し、なぜ自分が、と記憶を辿(たど)ってみて、農閑期に都会の工事現場に出稼ぎに行ったことがあり、そのときにアスベストに曝露(ばくろ)したと考えられるケースが起きている。関西では、1995年の阪神・淡路大震災では、倒壊した建物の解体作業に従事した労働者が、13年後に中皮腫を発症し、労災認定を受けた例などがある。