学校で教わる「浮いて待て」が危険な理由とは(日本水難救済会の動画より)
学校で教わる「浮いて待て」が危険な理由とは(日本水難救済会の動画より)

水に落ちた時、「浮いて待て」は危険です!公益社団法人・日本水難救済会(東京都千代田区)がTwitter(現X)に投稿した動画が注目されています。教育現場では服を着たままで水に入った時、大の字になり、浮いて救助を待つ「背浮き」という対処法を教えられますが、日本水難救済会は「顔に海水がかかって呼吸できなくなるリスクが高い」と警鐘を鳴らし、イカのように泳ぐ「イカ泳ぎ」を推奨しています。

ジーパンを履いていても泳ぎやすく、体力を消耗せず浮いていられます。海で子どもが命を落とす事故が相次ぐ中、日本水難救済会にイカ泳ぎや事故防止のポイントを聞きました。

■「浮いて待て」はパニック起こす恐れ

日本水難救済会は1889年、ノルマントン号事件で乗船していた日本人25人が全員水死したことを受けて、海難救助の団体として設立されました。約130年にわたって人命救助に取り組み、現在は約5万人のボランティア救助員が登録、海上保安庁などと連携して救助活動に取り組んでいます。名誉総裁は高円宮妃久子さま、会長は元海上保安庁長官の相原力さんです。

背浮きやイカ泳ぎの動画は、常務理事で元海上保安学校長の江口圭三さんが実演、投稿しました。江口さんが取材に応じました。

ーー学校現場では大の字になって背浮きし、「浮いて待て」と教えられます。

「静かなプールで救命胴衣(ライフジャケット)を着けていれば浮いていられますが、少しでも波や流れがある所では、チャプンと水面が揺らいだだけで鼻や口に水が入ってしまいます。日本ライフセービング協会と日本水難救済会で『大の字背浮き』の実証実験を行ったところ、波や風で鼻や口に水がかかり、呼吸できなくなってパニックになる恐れが大きいことが分かりました」

着衣泳の授業で行われる、2リットルのペットボトルにつかまって浮く方法も実験で試されましたが、浮力を十分に得られず、クーラーボックスは長時間つかむことが困難でした。

背浮きより、イカのように手足を動かす「イカ泳ぎ」をおすすめします。

「イカ泳ぎを実演した際はジーパンにポロシャツ姿でした。下半身に生地がまとわりつくジーパンでも泳ぐことができ、それほど泳力がなくても頭が浮いた状態を保つことができます」

「一般的に習う4泳法(クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライ)は、着衣泳では必ずしも有効ではありません。クロールやバタフライは上着で肩が回りにくく、平泳ぎはズボンが張り付いて脚を動かしにくい。イカ泳ぎは海外では『エレメンタリーバックストローク』『ライフセービングバックストローク』と呼ばれていますが、『イメージしやすい名前に』とイカ泳ぎと名付けられました」

「とはいえ、イカ泳ぎも万能ではありません。安定して長時間浮力を得るにはやはりライフジャケットを着用しておく必要があります」

江口さんは「浮いて待て」と教える教育現場に注文を付けます。「『浮いて待つ』だけではなく、浮いて呼吸を確保し、誰かに知らせるか、陸地に上がれる場所を探してください」

日本水難救済会はTwitterで海に出る際の注意点やチェックポイントも発信しています。安全対策を徹底し、楽しい夏の思い出をつくりましょう。

(まいどなニュース・伊藤 大介)