「イモトのWiFi」などで知られる西村誠司社長=2025年撮影
「イモトのWiFi」などで知られる西村誠司社長=2025年撮影

海外でのネット通信を可能にした「イモトのWiFi」、新型コロナウイルスの検査を自宅で簡単にできるPCR検査、不妊治療…。さまざまな事業で成功を収めてきたのは、「にしたんクリニック」などの運営を支援するエクスコムグローバルの西村誠司社長(54)だ。これらは全て、西村社長のアイデアで実現したものだという。どのようにして“当たる事業”が生まれるのか、思考に迫った。

■不便や不安を解消する事業

----それぞれの事業が生まれた経緯を教えてください。

「瞬間、瞬間の思い付きでやる感じがありますね。レンタルWiFiを始めた当時、海外でネットが簡単に使える時代じゃなかった。わざわざホテルに戻ってネットにつなぐのが不便だと思って、レンタルWiFiを始めたんです。コロナ禍では、PCR検査を受けられず、みんなが不安な状況でした。必要とされていたのに、誰も担い手がいない、だから、自分でやったんです。不妊治療も自分がアメリカで体外受精を受けた経験から、社会の人に役立つかな、と。不便だったり、不安だったり…。その時に思ったニーズに合わせてやってきました」

----実体験から事業が生まれているんですね。ただ、普通に生活していると、問題点になかなか気付けなさそうです。

「1つは、あるものがない、を考える。2つ目は、物事の類似点を意識する。3つ目は、こうなったらこうなるという因果を考える。僕は、これらを無意識にやっています」

■できる限りたくさんの打席に立つ

----事業を始める際、怖さはありませんか。

「好奇心が勝っちゃって。自分は成功すると信じて疑わなかったので。でも、いくつかは失敗しています。アメリカに住んでいた2015年ごろ、意気投合したイスラエル人がネット通信機器事業を立ち上げるからと、7億円を投資しましたが、破産しました。アメリカのベンチャー界隈は離合集散が激しくて、リスクマネーが流れて、空中分解して損したり、大儲けしたりするんです。僕はそういうダイナミズムに惹かれるので。破壊があって何かが生まれるのかなって。玉砕しても人間の凄みや深さが見える。挫折だったり悔しさだったり、そこからにじみ出るものがあると思うんです」

----西村社長でも失敗するんですね。その中で、事業を成功するための秘訣があれば教えてください。

「今でも、どれが当たるかなんて確信は、本当にないんです。本音を言うと、今でも何をやったらうまくいくかは分からない。ただ、うまくいくのもうまくいかないのも、打席に立つしかない。できる限りたくさん打席に立っているだけで。若者がよく事業の相談に来ますが、正直、分からないです。でも、あーだこーだ考えているんだったら、やった方が早い。重ねて行けば、精度は上がると思うんです。大事なのは、恐れずに突っ込んでいくこと。うまくいかない時は、方向修正を素早くやる。大多数、そこが怖いので。だったらやらない方がいいじゃんって、みんな、やらないだけです」

(まいどなニュース・山脇 未菜美)