世の中、まだ捨てたものではない。そう思わせてくれる「神様ありがとう」と言いたくなるような奇跡の体験が、人々の心に小さな希望を残してくれることがあります。鍵をつけたままの自転車、公衆電話に忘れた財布、海外で紛失したパスポート…。普通なら戻ってこないはずの品々が、なぜか無事に持ち主の元に戻ってくる。東京都在住のDさん(40代)もまた、そんな出来事に心打たれたひとりです。
■駐輪場に一昼夜放置、それでも無傷だった電動自転車
駅前にある無料駐輪場。自転車の利用者であれば「鍵の確認」は基本中の基本ですが、Dさんは急いでいたせいで、うっかり鍵をかけ忘れたまま一昼夜放置してしまいました。購入したばかりの電動自転車。しかも、鍵はそのまま差さった状態です。鍵をかけ忘れたことを思い出したとき、背筋が凍ったといいます。
「翌日に出かけた先から戻ってきたとき、もう多分自転車はないだろうな、自転車はあってもバッテリーだけないこともあるんだろうなとずっと考えていました。でも、そこにちゃんとあったんです。鍵も差さったままで!」
その瞬間、思わず空を見上げ、「神様、ありがとうございます」とつぶやいたDさん。日ごろから電車やバスでは高齢者や身体の不自由な方に率先して席を譲ったり、道に迷っている外国人観光客に声をかけるなど、「小さな善行」を続けていた自覚があったそうです。
■奇跡の再会。神様がくれた、ダイヤのピアスともう一度出会えた夜
別の日、Dさんは念願のアーティストのライブに、子どもと二人で訪れた夜のことでした。超有名のアーティストのライブのチケットは、入手が困難でありとあらゆる手段を使ってやっとのことで手に入れたものでした。日頃の忙しさから少し離れて、子どもと地方遠征をし、旅行気分もあり特別な時間になるはずでした。
ライブは予想通りの盛り上がりを見せ、Dさんも思わず推し活うちわを高く掲げてジャンプした瞬間、何かが右耳をかすめる感覚がありました。暗転のなか、右耳を確認すると、仕事に育児に頑張っている自分へのご褒美として奮発して買ったばかりの一粒ダイヤのピアスがないことに気付きました。
鼓動が一気に早くなり、血の気が引いていくのがわかりました。必死に足元を探しますが足元は暗くて何も分からない。ライブの最中に屈み込むこともできず、照明がチカチカと点滅するなか、視界は揺れ、頭が真っ白になったそうです。
曲が終わるたびに「今だ」と床に手をつき、スマホのライトで足元を照らして探すも、あまりの人混みに探しようもなく、ライブは終わりました。
「近くにあるとは限らない。誰かに踏まれて壊れてるかもしれない。最悪、盗られてるかも」
一生の思い出となるはずだったこの夜が、一転して最悪の記憶になるかもしれないと諦めながら、一応事務局へ落とし物の確認に行きました。
「もしかして、こちらをお探しですか?」
スタッフが差し出した小さなトレイの上には、まぎれもなくDさんのピアスだったのです。
Dさんはその場で崩れ落ちるように座り込み、涙が止まりませんでした。スタッフによれば、観客の一人が足元に転がっていたピアスを見つけ、「誰かの大事なものに違いない」とスタッフに届けてくれたとのこと。
見ず知らずの誰かの善意、そしてそれをすぐに保管してくれたスタッフの対応、まさに「神様ありがとう」としか言いようがない出来事でした。
■海外でパスポート紛失…にもかかわらず奇跡のように戻ってきた話
Dさんは海外出張でもやらかしていました。シンガポールで立ち寄った商業施設のトイレに置き忘れたのは、旅の命とも言える「パスポート」でした。ミニバックに入れて持ち歩いていたのに、トイレで外していました。気づいたのは30分後。トイレに戻った時点ではすでに消えており、絶望の淵に立たされました。
最後の望みをかけて施設の受付に駆け込むと、なんと、パスポートは届けられていました。受付担当者は「あなた、かなりラッキーです。普通は戻ってきません」と告げたといいます。
一緒にいた同僚からは、「身に付けていたパスポートをトイレで外すなんてありえない」と呆れられたそうですが、それでも最後には「神様ありがとう」と感謝するしかなかったのです。
■渋谷駅ビルのトイレにパソコンを忘れた。それでも救われた
Dさんのヒヤリとする体験はまだあります。渋谷駅直結の商業ビルのトイレにノートパソコンを置き忘れたこともありました。絶対忘れないようにとドアのノブにかけていたパソコン。それなのにすっかり忘れてしまい数分後に慌てて戻ったところ、幸いなことにパソコンはそのままの場所にありました。
「もし中のデータが漏れていたら、仕事だけでなく人生まで狂っていたかもしれません」
Dさんは、パソコンにAirTagをつけようと、すぐ家電量販店へ駆け込んだのでした。
◇ ◇
Dさんの肝を冷やす忘れ物体験は、偶然にしてはできすぎていると思われるものも多いでしょう。ただ、ここまで重なると「自分の日ごろの行いが、こうした奇跡を引き寄せたのではないか」と考えたくなる気持ちもわかります。
あなたも「神様ありがとう」と感じた出来事はありますか。
▼茨城県・30代
旅行先の水族館のお土産売り場で、子どもが一瞬目を離した隙に迷子に。あたりは騒然として、店内を大声で子どもの名前を呼んで探しまくりました。青ざめながら、迷子センターへ行こうと思ったら、5分後に何食わぬ顔で戻ってきて、しかも「さっきお姉さんがあっちでお母さん探してるよって教えてくれた」とのこと。名乗らずに立ち去った“お姉さん”に感謝しつつ、神様ありがとうと言いまくりました。
▼神奈川県・20代
忙しさのあまり賃貸契約更新を忘れており、家主からの最終通告をポストの一番奥に埋もれていた通知ハガキで偶然発見。あと1日遅れていたら契約解除だったということで、「これは完全に神の啓示」と反省しつつ、以後ポストチェックを欠かさないようにしました。
▼埼玉県・30代
平日の昼休み、急いで銀行のATMで現金を引き出したあと、キャッシュカードを取り忘れたままオフィスに戻ってしまったことがあります。気づいたのは3時間後。「もう誰かに使われたかも」と震える手で銀行に問い合わせると、「カードはこちらで預かっています」との返答。次に使った方がすぐに届けてくれたおかげで、不正利用もゼロ。銀行職員にも「悪用されることが多いので、かなり運がよかったですね」と言われました。「徳を積んでいたのかも…」と思いました。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)