今回の参院選、自公が過半数割れとなり、改選数で見た場合、①自民(-13)・公明(-6)・共産(-4)が大幅減、②国民(+13)・参政(+13)が躍進、③立民・社民が現状維持、④維新(+1)・れいわ(+1)が微増、⑤保守(+2)・みらい(+1)が新たに議席獲得、という結果になりました。予想されていたとはいえ、大きな地殻変動です。
■ 何が起こった?
都道府県選挙区は、一人区では、前回は「自民28、野党4」だったのが、今回は「自民14、野党18」となりました。複数区は、これまで自民、立民、公明、維新の指定席であったところを、今回参政や国民が取っていくという構図になりました。
どんな選挙においても、「まずは自分の政党の支持層を手堅くまとめ、そして無党派や他党支持層を切り崩していく」が原則ですが、今回自民は、そもそも政党支持率が下がっている(比例得票率 前回(2022年)34.43%→今回21.75%)上に、その支持層の半分程度しか自民候補に投票しない、という傾向が見られ、その一部が国民や参政に流れました。各社の出口調査を見ると、10~40代では、参政や国民が1位2位というデータもあります(朝日新聞)。
また、最も大きなウェイトを占める無党派層や、投票率の上昇(約5%)を見れば、これまで政治に関心のなかった層・投票に行かなかった層が、新たに掘り起こされた面もあります。
全国比例の獲得議席数は、各政党の勢いを示すバロメーターになるものですが、今回立民は議席を伸ばせず(比例得票率 前回12.77%→今回12.51%で、国民12.85%、参政12.60%より少ない。)、野党でも明暗が分かれました。維新は、万博の盛り上がりも、国政政党への伸長には寄与せず、公明、共産は、支持者の高齢化の一方で、コアな支持層以外や若年層への訴求が進みませんでした。
■背景・要因は?
まず何と言っても、長きに渡る経済停滞と、昨今のインフレ・物価高で、多くの国民が「生活が楽ではない・将来が不安だ」と感じている中で、与党はもちろん、野党含めた既存政党全体に対する、「結局、何もしてくれなかったじゃないか」といった“怒りや諦めの静かなマグマ”が爆発した、という感じがします。
同時に、突如として国内の至る所(都市部も地方も)で目にするようになった海外の方(インバウンド、技能実習、留学など、滞在理由は様々ですが)の衝撃、そして円安もあり、「日本人が買えなくなった物や不動産を、外国人が買っていっている」感、インバウンドや外資系企業の誘致があっても、その恩恵を受けるのは一部の方だけで、地元が潤うわけではない、というジレンマ。
そして自民からは、「日本をどういう国にしたいのか?そのために、何をしようとしているのか?」の、分かりやすくブレない明確なメッセージが、届きませんでした。 また、自民の岩盤保守層の一部が、国民民主を経て参政に流れた、という指摘も、的を射ているように思います。自民は議員の数が多く、その分、左に寄ったウイングの広い主張も見られる中で、安倍元首相のもとで支持を集めていた「日本よ、世界の真ん中で咲き誇れ」の右の流れが、参政に行きついている感があります。
欧州の多くの国(イタリア、ハンガリー、オランダ、ドイツ、フランス、オーストリア等)で、近年「右派・極右政党の台頭」の大きなムーブメントがあり、全く同じ文脈ではありませんが、我が国もこうした流れの中にあるともいえ、また、若手・現役世代の支持が鍵になっていたり、候補者の中では、高齢男性より若手女性が浮上するといった、政治の新陳代謝を求める傾向も、汲み取ることができます。
■ ネットの絶大な影響力
今回の参院選でも、政治への関心の惹起や、支持する政党や候補者を決める上で、ネットの影響力はすさまじいと思います。例えば、関連動画の閲覧回数は、政党によって大きく異なっていて、YouTube動画の合計再生数は、参政7.8億回、自民5.9億回、れいわ4.7億回、立憲3.5億回、国民3.4億回、保守3.0億回、維新1.7億回、社民1.6億回、共産9千6百万回、公明9千1百万回となっています。(7月3~16日 政党名検索キーワードを含む動画再生回数(選挙ドットコム調査))
もちろん、テレビや新聞をご覧になっている方も多いわけですが、ここで留意すべきは、全世代平均で見ると、テレビよりネットを見る時間が長くなっている(総務省調査)ということだけではなく、テレビ番組は「すべての政党・(その選挙区の)すべての候補者」を平等に取り上げますが、ネットは基本的に「その政党・その候補者」の情報だけが、繰り返し流れてくる、ということです。
また例えば、参院全国比例の候補者ひとりが配布できるビラの上限は25万枚で、それをポスティングや新聞折り込みをしたり、街頭で手渡ししたりするわけですが、実際にちゃんと読んでくれる方の数を考えれば、ネットは桁違いの数で、支持する政党や候補者を決める上で、ネットの影響力はすさまじいと思います。
■ 選挙の戦い方が全く変わる
「選挙の戦い方」自体が、全く変わる、新たな時代に本格的に入っていると思います。(しかし、公職選挙法の選挙のやり方が、時代の急激な変化に、まったく追いついていません・・・。)
そして、選挙や政治への姿勢が、“推し活”のような様相を呈してきているようにも思いますので、芸能人の方々と同じように、党首や候補者のビジュアルやキャラクター、話術のようなものが、かつてないくらいに、党や候補者の人気に影響を与える要素になってきている面が、あるように思います。
ただし、もし、政治家がそういったことでばかり選ばれるようになってしまっては、国が危うくなってしまう、という懸念も実際あると思います。
■ 石破首相はどうなる?
石破首相の続投の意思表明については、党内に異論があるものの、火中の栗を拾おうという候補が出てくるか、仮に新総裁が選出されても、少数与党ゆえ、国会の首相指名選挙で首相に選ばれるとは限らない、といったこともあります。
なお、自民党則6条4項に、「国会議員と都道府県連代表1名の総数の過半数が要求すれば、総裁選挙を行う」という規定(リコール規定)があり、党内一部にその動きもあるようですので、続投できるとは限りません。
また、衆院解散については、基本的に「今解散したら、自分の党の議席が増える(あるいは、先延ばしにしたら、もっと議席が減る)」と見込まれるから行うのであって、その観点からは、自公も立民も、党の勢いが無い状況で、自公が解散するメリットも、立民が不信任決議を出して解散に追い込むことも想定しにくく、したがって、早期の衆院解散の可能性は低いのではないかと思います。
■今後の政権運営は?
自公が過半数割れ(無所属当選議員8名のうち、自民系は1人(和歌山)しかいませんので、足しても過半数には達しません)していますが、選挙特番での各党党首の話や、わたくしが各党の議員の方等に聞き取りをしてきた内容を総合しますと、どの野党にも、現在の石破政権と連立を組むつもりはなく(総裁が代わった場合はどうか、といった点は、政党によって温度差があるように思います)、かといって、政策が大きく異なる野党同士が連立するというのも、実現可能性が乏しい状況です。
議席数の面から見ても、新たな参院の勢力は、自公で122(和歌山を入れると123)、自公以外で126(同125)と拮抗しているので、「ほぼすべての野党が連立を組んで、基本的に毎回同じ方針を打ち出さない限り、自公に数で劣る」という状況にあり、やはり難しいだろうと思います。
したがって、現状では、先の通常国会のような政策ごとのパーシャル協力を、法案や予算案ごとに毎回検討していくことになるわけですが、自公が後退著しい局面で、石破首相の党内での求心力も弱まっている中で、野党は更に強気を貫くことが想定され、綱渡りの政権運営が続くことになります。
そしてそうした不安定な状況は、国民にとっての弊害もあり、今後、中長期的に、我が国で「信頼に足る安定政権をどのような形で実現するのか」が、与野党ともに(与野党が逆転することや、欧州型連立政権の方向といったことも含め)、問われていると思います。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。