人事部で働いているAさんには、新卒で入社してきた部下が1人います。彼はいつも耳にイヤホンを付けながら仕事をしているので、「何を聞いているの?」と聞くと「音楽です!これがないと集中できないんです!」と返ってきました。
電話対応や他の社員とのやりとりもあるため、「休憩時間だけにしたほうがいい」と注意しましたが、「誰にも迷惑かけていないからいいじゃないですか」と返ってきました。実際、同僚から話しかけられた時などは、その都度イヤホンを外して対応しており、業務に支障は出ておりません。
とはいえ仕事中なのだから、他の人たちと同様にイヤホンで音楽を聴くことなく業務に専念してもらうべきなのでしょうか。リベルテ社会保険労務士法人の渡邉朋宏さんに話を聞きました。
■従業員には職務に専念する義務がある
ー仕事に支障が出た場合、音楽を聴くことをやめさせられるのでしょうか?
結論、やめさせることは可能です。会社には、業務遂行にあたり一定の指揮命令権があります。そのため、仕事をしている従業員の行動に一定の指示・制限をすることができます。
また従業員には、職務に専念する義務があります。音楽を聴くことで業務効率が下がったり、周囲との連携に支障が出るようであれば、「職務専念義務違反」に該当する可能性もあります。
音楽を聴くのをやめさせるために、口頭での注意以外にも、会社としてルールを定めることが望ましいです。具体的には就業規則等のような規程に記載することが望ましいでしょう。
ー支障が出ていなくても、音楽を聴くことをやめさせることはできますか?
こちらもやめさせることは可能です。業務に支障が出ていなくても、会社の業務方針やルールに基づいて禁止・制限ができます。ただし、その場合は次の事項を確認する必要があります。
(1)合理的ルールの有無
会社には業務遂行の他に、職場の秩序・安全を守る権利があります。例えば、音楽を聴いていることで「社内のコミュニケーションが取れなくなる」、「お客様対応があるので見た目の印象に配慮が必要になる」等、業種によって様々あると思います。こうした観点からルールを定め、制限できます。ただし、何となく「聴くのはやめて欲しい」ということだけでは制限できないので、注意が必要です。
(2)就業規則等へ記載の有無
(1)のルールを就業規則や社内ルールとして書面で記載されていることが重要です。会社の方針として明文化することにより、「支障がないなら聴いてもいい」という主張に対して、根拠を示すことができます。
(3)公平性の有無
(2)を定めることにより、公平性を担保できます。例えば聴いていい人と聴いてはいけない人がいる状態になると、従業員から見て不信感に繋がります。このように公平性を確保することにより、会社のルールを統一化することができます。
ただし、障がい者を持っている従業員(例:発達障がいで耳栓等がないと集中できない)は、合理的な配慮をおこなう必要があります。このような例外規定も就業規則等で定めておくとより良いと思います。
◆渡邉朋宏(わたなべ・ともひろ)
リベルテ社会保険労務士法人の代表社員。民間企業・官公庁を日雇いから正社員まで経験。その後起業をし、現在も別会社にて経営マネジメントを担当。労働組合の役員に所属した経験もあり、経営者と労働者等、多角的な視点で労働問題に取り組むことを得意とする。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)