コンビニチェーン「ミニストップ」は、全国23の店舗で消費期限の偽装があったと発表しました。本来であれば製造後すぐに消費期限のラベルを貼るべきところを、一定時間経ってから貼っていたことがわかっています。またSNSでは牛タンの屋台で実際に提供されていたのは豚タンだったというトラブルも話題に。
昨今、食品に関する偽装問題がニュースで取り上げられていますが、食品を偽装した場合に問われる罪はどんなものなのでしょうか。弁護士の岡本隼弥さんに話を聞きました。
■食品偽装は消費者の信頼を裏切る行為
ー食品の偽装はなぜ問題になるのでしょうか。
食品の偽装が問題となる最大の理由は、「消費者の信頼を裏切る行為」だからです。たとえば、消費期限が偽装されていると、消費者は知らないうちに危険なものを口にしてしまう可能性があります。これは健康被害に直結する重大な問題です。
また、「仙台牛タン」と表示されているのに、実際は安価な「豚タン」だったとしたら、消費者は騙されてお金を払っている状況なので、経済的な被害も受けることになります。
さらに、食品の偽装は、社会全体の信頼関係を揺るがしかねない事態に繋がることも十分に考えられます。不正を行ったのが一部の店舗や業者であっても、「あの会社の商品は大丈夫なのか」「他の食品も信用できるのか」といった不安が広がり、食品業界全体に対する信頼が低下するでしょう。結果として、真面目に取り組んでいる多くの事業者にとっても大きな損失となります。
つまり、食品の偽装は健康や経済的な被害に繋がり、食品業界を巻き込む大きな問題にもなり得るのです。
■偽装の内容によって罪は異なる
ー消費期限の偽装や食材の偽装など、偽装した内容によって罪は異なるのでしょうか。
食品の偽装はさまざまな法律に違反し、罪に問われる可能性があります。まず、本来の消費期限を過ぎた食品を、あたかも新しいかのように表示する「消費期限の偽装」は、食品の表示に関するルールを定めた食品表示法に違反します。さらに、消費期限を偽ったことで衛生上のリスクがある食品を販売した場合、食品衛生法違反にも該当する可能性があります。
次に、「仙台牛タン」と表示しながら実際には「豚タン」を提供するような「食材の偽装」も、食品表示法に違反すると考えられます。また、原産地を誤認させたり、実際の品質よりも優良だと誤認させたりするような表示は、不正競争防止法や景品表示法に違反する行為です。
刑法上の罪に問われる可能性もあります。消費期限や食材の偽装によって消費者を騙し、実際の価値よりも高い金額で販売する行為は、詐欺罪に問われる余地があるのです。
さらに民事責任を負うケースもあるでしょう。万が一、偽装された食品を食べた消費者に健康被害が生じれば、被害者から損害賠償を請求されることが考えられます。
ー具体的にどのような刑罰を科せられるのでしょうか。
食品偽装に科せられる罰則は、行為の内容や適用される法律によってさまざまです。たとえば、消費期限の偽装が食品表示法に違反する場合の刑罰は、2年以下の拘禁刑、もしくは200万円以下の罰金、またはその両方です(食品表示法第18条)。そして、会社(法人)も1億円以下の罰金という、重い刑罰の対象となります(同法第22条1項2号)。
消費期限の偽装によって、人の健康を損なう恐れのある食品を販売した場合は、3年以下の拘禁刑、もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります(食品衛生法第81条1項1号、同条2項)。会社に対する刑罰も、やはり1億円以下の罰金です(同法第88条1号)。
また、食品表示法や食品衛生法に違反すると、行政処分を受けることとなります。事業者名が公表されるほか、営業停止や食品の回収などの命令を受け、これらの命令に従わない場合も、やはり拘禁刑や罰金の対象となります。
食材の偽装により不正競争防止法に違反した場合の刑罰は、5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその両方で(不正競争防止法第21条3項5号)、会社に対する刑罰は3億円以下の罰金です(同法第22条1項3号)。
景品表示法の違反に対する刑罰は、100万円以下の罰金ですが(景品表示法第48条)、この法律に違反した際の大きなペナルティは課徴金の納付命令です(同法第8条)。不当表示が行われた商品の売上額の3%分(最長3年分)を課徴金として納付するよう命じられるため、偽装行為で巨額の利益を得ていれば、ペナルティも大きくなるでしょう。
さらに、詐欺罪が認められた場合は、法人であれば当該行為を行った役員や従業員について、10年以下の拘禁刑という重い刑罰を受けることになります(刑法第246条)。
事業者にとって、偽装により一時的には利益を得られるかもしれません。しかし、偽装が発覚した場合は重い刑罰や行政処分を受け、社会的信用は失墜することになるため、法令を遵守して、正しい表示を徹底することが何よりも重要です。
◆岡本 隼弥(おかもと しゅんや)弁護士/弁護士法人プロテクトスタンス
企業法務や刑事弁護、借金問題、男女・離婚問題など、幅広い分野に精通する新進気鋭の弁護士。相談者や依頼者に寄り添い、丁寧かつ迅速な対応で法律トラブルを解決へと導く姿勢に多くの信頼を集めている(第一東京弁護士会所属)。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)