見合って見合って…
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双子のホッキョクグマが元気に駆け回り、母親も一緒になって遊ぶ姿が人気を集める「仙台市八木山動物公園フジサキの杜」。出産4度目にして″奇跡”の光景に至るまでの繁殖研究、生育を支えるための情報共有などをテーマに、このほど、講演会が開かれました。

同園の開園60周年記念講演会「どうして動物園でホッキョクグマを育てるの? 双子誕生の舞台裏」。双子は2024年12月に誕生しました。母親はポーラ、父親はカイ(いずれも2004年生)。双子は2025年6月から一般公開されており、愛称はうみ(オス)、そら(メス)です。

講演では、同園飼育展示課の吉住和規課長が「2頭は2010年から同居を始めた。2014年から繁殖行動があったが、出産には至らず、2018年から人工授精。2019年は死産し、コロナ禍での中断後は2022年、2023年に出産したものの生育できなかった」と説明しました。

北海道大学の栁川洋二郎准教授は「動物の繁殖の仕組みを理解してサポートする~繁殖研究と生殖補助技術」をテーマに話しました。

「ホッキョクグマは長日性季節繁殖動物で、交尾後に排卵、着床遅延という特徴があり、真の妊娠期間が短い。ヒグマを参考に子宮の形態、妊娠の仕組みを研究し、人工授精に使用する器具を決定。メスの体勢は当初うつ伏せだったが、仰向けに変更した」など、試行錯誤してきたことを紹介しました。

「カイの生殖能力に問題がないことを事前に確認し、繁殖行動開始の連絡を受けて人工授精を行った。自然な繁殖行動があるペアに人工授精まで必要なのかと感じるかもしれない。技術の確立は困難で最悪の事態に備え、やれるうちにやれることをやっておく必要がある。 ホッキョクグマの姿を通して、その生息地や生態系について関心を持ち、ホッキョクグマとともに暮らす人々がいることにも興味が広がる。動物は世界の窓」と、動物園の役割も話しました。 

公益社団法人日本動物園水族館協会のホッキョクグマ計画管理者を務める旭川市旭山動物園の佐藤伸高獣医師は「日本のホッキョクグマの歴史といま」と題して講演しました。

「かつては海外からペアを導入し、亡くなれば次のペアを入れた。メスが生まれると母親と同居し続けることもあり次の繁殖はない。1975年のワシントン条約によって海外からの導入が困難となり、飼育下で増やす必要が出てきたが、動物園間のネットワークが不足していた。1917年から2024年までの成育率は18.7%。2012年以降は44.4%と高くなった。年齢別死亡率は1年以内が30%だったが、情報共有が進み生存率が上がった。産室をより静かで狭く暗くして野生に近づけた。飼育技術の向上、監視カメラなど機器も進化した」

「計画管理者の役割は繁殖計画の立案、データ管理、個体の状況把握などの情報収集だ。2009年からホッキョクグマ繁殖プロジェクトで個体移動を積極的に行ってきた。長年のペアを解消して他園へ移動、それぞれが繁殖に成功した例もある。個体移動に『かわいそう』『親と離されて…』などの声が上がる。現場のプレッシャーはものすごいものがある。ホッキョクグマがいなくならないよう繁殖を回す必要がある。リスク選好の世の中、チャレンジしないと未来はない」と強調しました。

(まいどなニュース特約・茶良野 くま子)